ショッピングプラザを出て、外苑東通りへと歩く。
色とりどりのネオンが通りを行く人々や車を染めて夜空に浮かび上がらせた。
3月初旬。
日に日に暖くなってきてはいると言えど、2月の名残か、夜ともなれば時折冷たい風が身体を撫でる。
くしゅん
右斜め後ろから、くしゃみが一つ。
寒さの所為か、彼の場合はおそらく花粉か(彼は2月から花粉症に悩まされている)。
鼻を啜る音が聞こえる。
雑踏の足音の中に際立って耳に届く足音が右斜め後ろに有る。
その足音が後ろから聞こえてきた。
近付く。
真後ろ。
そして、
「寒いっ」
足音は言葉と共に背中に張り付いた。
細い身体だがなかなかの衝撃を与えてくれた。素晴らしい突進攻撃。
「ちょ、とー‥背中が爆発したのかと思ったよー。どうしたの?」
首だけ後ろを向くと、ニヤニヤと笑う顔がこちらを覗いていた。
「寒いから人肌恋しくなったん。」
背中からゆっくり伝わる体温。
熱伝導。
「んもう、とんだ甘えん坊さんだ!」
冗談めかして言ってやると、生きた背後霊はくくっと喉で笑った。
*連載2話目「花信風」より*
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