二人は晴天の下、のんびりと歩いていた。
「うーん、気持ちいいねー」
ぐぐーっと伸びをする白雪に、隣で歩いている魅蜻はこくりと頷いた。
今は白雪に買って貰った、髪と瞳と同じ色のワンピースに身を包んでいて、嫌いだったこの色が密かに好きになりつつある。
「あ、町……」
魅蜻が小さく呟き、それに白雪は上ばかり向けていた顔を前にやった。
「あ、ほんと!よっし、今日は宿に泊まれるよ」
その言葉に、魅蜻は少しだけ微笑んだ。
少しずつ、表情を見せる魅蜻に、白雪も嬉しそうに目を細めた。
「よし、行こう!」
賑やかな町。かなり大きく、盛んな町。
白と紫の少女達は、旅籠の前で突っ立っていた。
「──なんですと?」
「だから、そんなはした金じゃあうちにゃあ泊められないよ!出直してきな!」
と、そういうことで放り出された始末。
「……ここまで来て野宿なんかしたくないよ」
「…………」
同意、というように魅蜻は肩を落とした。
「どこかにお仕事ないかなー」
白雪が呟いた刹那、背後で声がした。
「何、お嬢さん。仕事探してんの?」
ゆっくり振り返ると、漆黒の髪の青年と、金髪の青年が立っていた。
漆黒の青年は、まじまじと物珍しそうに白雪を見下ろした。
「雪白(セッパク)の巫女、つーか……」
「何、お仕事くれるの?」
慣れてしまった好奇の目にも気にせず、白雪は二人を見返した。袖をきゅっと掴む魅蜻に安心させるように小さく笑んで見せてから。
「いや、さ。実は俺達も宿代探しててな」
──期待外れ。
「じゃ、これで……」
「で、あれなんかどうですか?」
と身を引き返そうとする前に、金髪の青年が、とある建物をすっと指した。
白雪と魅蜻はつられるように建物に目をやった。
『美女美男コンテスト』と、建物の扉に大きな貼り紙──というか、ポスターが。
「……は?」
思いっきり顔をしかめた白雪に、金髪青年は苦笑した。
「勿論賞金はありますよ。金四枚」
「金、四枚っ?」
金一枚あれば宿代、いや、一月はふかふかのベッドで過ごせる。
四人で山分けしても十分な程だ。
「でも、なあ……」
白雪は苦笑した。
──こんな化け物が出ていい場所じゃない。
そう心中で呟き、魅蜻を振り返った。
「魅蜻、出てみる?君は美人だし彼等も世間でいう美男だ。いけるんじゃないかな?」
すると魅蜻は戸惑った顔をした。
「これは男女ペアで出なきゃ意味がないんですよ」
金髪の青年がそう言うが、白雪はそれを見事に無視し、魅蜻に首を傾げてみせ、笑った。
「魅蜻、君が嫌ならわたしは無理強いはしな「──やる」
白雪の言葉を遮り、魅蜻はそう言った。
それには白雪も驚いた。人混みが苦手な彼女が、自ら進んでやると言うのだから。
「……ほんとに?無理しなくていいんだよ?」
「大丈夫……」
魅蜻は頑として首を縦に振らなかった。
「だったら私と出ましょう、お嬢さん」
金髪の青年が名乗り挙げた。
「私は翡翠。貴女は魅蜻、さんで宜しかったですね」
翡翠と名乗った金髪の青年。確かに瞳が翡翠の色をした、整った顔の青年。
魅蜻が恐る恐る頷くと、青年、翡翠はふわりと優しく笑った。
そんな翡翠に、白雪は安堵した。柔和そうな彼が、大事な魅蜻に危害を加えそうにはない。任せても大丈夫そうだ。
「俺は黒銀(くろがね)だ。──俺はそんなつまらんもんには出ない。お前達だけで行ってこい」
漆黒の瞳、髪の青年、黒銀は面倒そうに魅蜻と翡翠を追い払うようにしっしっと手を振った。
「つまらんて……黒銀は相変わらずですねえ。では魅蜻さん、行きましょうか」
「……」
僅かに固くなった魅蜻に、嫌な顔一つ見せず翡翠は笑った。
「翡翠、だっけ。金髪のおにーさん」
背を返そうとしたが、白雪の呼び掛けによって翡翠は振り向いた。
「魅蜻に手ぇ出したら、──殺すよ?」
「────!」
ぞくりとする程冷たい笑顔。
これには翡翠も、黒銀さえも息を呑んだ。
「白雪、大丈夫。行ってくるね」
微かに笑んだ魅蜻に、白雪はいつも通りのあどけない笑みを見せて、歩いて行った二人を見送った。
1.END.