わたしには不思議な力がある。否、異質な、不気味な力。

自然を操る力。

風を起こしたり、水を操り形を成したり、土を盛り上がらせたり、自然を自分の意のままに操れる。

そして、純白の風貌。

聞こえは良いが、不気味な色。

だから、殺された。

──みんなが。

「……っ!」

不意に殺気を感じ、何気なく拾って手の上で転がしていた木の棒で、咄嗟に背後にいた男を薙ぎ払った。

蛙が潰れたような悲鳴を挙げ、男は湿った土の上に転がった。

周りを見ると、忍者の服装の男達が十人程、得物を構えて自分を囲んでいた。

「ほんっと、君達も懲りないね。この世には愛される馬鹿とただの馬鹿、二つがある。……君達は後者だ、ね!」

背後に掛かってくる男達を気配で感じとり、先程倒れた男の腰から脇差しを抜いて飛んできた刀を止める。

キィィン!

金属が擦り合う音が夜の森に響いた。

「面倒だなあ……」

ぞくぞくと現れる忍者達に、わたしは心底面倒臭くなって盛大な溜め息をついた。

「早く帰りなよ。まだ死にたくない、でしょう?」

そんな説得も虚しく、また数人の忍者が得物を片手に素早く飛びかかってくる。

「……馬鹿だなあ」

そう呟いた。憐れみを込めて。

そして、数分の内に忍者達は地面に這いつくばることになった。

「ば、化け物だ……!お前は、化け物だ!」

恐怖に顔を歪めた男が、震える声でそう叫んだ。

わたしは踵をかえして歩き出した。

が、肩越しに振り返って可愛らしく、そして氷のように綺麗に笑った。

「わたしもそう思う」

満月を背に、わたしはそう笑ってから、もう振り返ることなく歩き出した。

当てもない、旅。

わたしは月を見上げた。

純白の満月。

自分とよく似た色。

しばらく歩いていると、人が仰向けに倒れているのが見えた。

首を傾げて、気配を消してそれに近付いた。

「き、れい……」

満月を見上げた少女は、ぽつりとそう呟いた。

わたしはそれを聞いて、なぜか締め付けられたように疼いた胸をきゅっと押さえた。

そして少女を覗き込み、

「──風邪、引くよ?」

少女は驚いたように深い紫の瞳を見開き、わたしを凝視した。

その瞳には、怯え、恐怖、警戒の色があった。

でも自然と、わたしは少女に手を伸ばしていた。

「わたしと、来ない?」

「──行く」

ああ、この退屈な旅は楽しくなるんだろう。

独りじゃ、なくなるんだ。

「君、名前は?」

「み、かげ……魅蜻」

「わたしは白雪──宜しくね」

握った手はとても温かかった。

そして、冷えていた心も。



END.

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