09.09 02:46
SDVX 灯色×マキナ
「記憶ってなんだろうか」
寝転んだ、屋上のコンクリートは空が近くて、でも手が届かないほど遠くて、もどかしさを空気と共に握りしめる。潰してしまった。手のひらの向こうには、もう空しか見えない。
呟いた独り言にまどろみ。夢現。コンクリートの冷たさがただ心地いい。難しいことを考えるのはあまり好きではないから、面倒くさい難題を頭の中から消した。それでも響く、記憶に関する記憶。
「君は機械だから、記憶を失わなくて済む。いいよね」
言葉に、機械の少女はざっくりと傷付いた顔をした。青い瞳から零れる透明な滴と、安っぽい暴言。灯色さんのばか、そう叫んで駆け出す緑の髪。とてもじゃないが、追う気にはなれなかった。ボクは正しいことを、正論を言ったつもりだったから。
一部始終を黙って見ていた赤志魂もまた、傷付いたような顔で短く言う。灯色のばーか。
「後でマキナに謝っとけよ」
赤志魂はそれだけ、短く言うと足早に去っていく。その背を眺めた。
「……ボクのことなんて忘れてしまったほうが楽だろうに」
どうせ、不律灯色など偽りの存在だ。記憶が戻れば、去っていく。
誰も彼も眼前に浮かべ、諦めたように目を閉じた。
「忘れられませんよ」
頬に触れる柔らかい手と、優しい声色。誰、だろう?
「だってわたし、機械ですから」
機械――マキナ。うっすらと目を開けて見た彼女は、嬉しそうに笑っていた。
不思議だな、あんなに泣いてたのに。
「……ありが、と」
夢に落ちる
ひーまき〜!!
08.25 04:31
SVDX 烈風刀さん×MAD†HOLICちゃん
顔も、声も、名前も、何も知らないどこかの誰かに、恋をしてしまいました。
たった一つ、ネットワークだけが僕たちを繋ぎ止めるコネクション。記号の羅列と意味を成さない言の葉の数々。ああ、どうすればあなたをもっと知ることができるのでしょうか。今のままでは情報が少なすぎる。分析もままならない。
小さく拙いシンパシー、それでも届けようと試みるコミュニケーション。喜怒哀楽を送り続ける画面の向こう側。
あなたに会いたくなりました。
声が聞きたい、言葉を交わしたい、その手に触れたい。そんな小さな願いさえも叶わない。それも、いいかもしれないと思った。
画面越しの恋、いつか、きっと、もし、にまみれた不確定な絆を手繰り寄せ、大切に抱きしめる。
いつか、助けに行きます
必ず
返事は返らない
名前を呼べば表情を変えることなくこちらを振り替える。返事は返らない。
それでいいんです。もう画面越しの、不確定な約束に縛られることもないのだから。
声なんて無くていいんです。返事なんて無くていいんです。ここにいてくれれば、それで。
記号の羅列が笑う。
れふまどかわいい
07.08 01:46
SDVX 冷音×魂 8年後
目が覚めた時、どこか違和感を感じた。はっきりと言葉にし難い、もやもやとした違和感。天井が白い、体が動かない、何もわからない。寝ている? そっか、俺、寝てたんだ。早く起きて学校に行かないと――無理矢理体を起こそうとしたが、言うことをきかない。なんだ、これ。目線を動かして、あたりを見回す。自室じゃない、見慣れない部屋だ。
――病室?
どうしてこんなところにいるのか、思い出せなかった。
思い出そうとすると頭痛がする。空白、何が起こったんだ?
「……魂!」
名前を呼ぶ声と、近づく足音。この声は、冷音だ。
「魂っ……俺のこと、わかる?」
何言ってんだこいつ。わかるに決まってんだろ。
俺の手を握り、不安そうな顔をする冷音は以前とどこか違っている。長かった前髪は軽くなっているし、ヘッドホンをしていない。何より、いつも持ち歩いていた傘が見当たらない。
「れい、ん」
ひどくかすれた声で名を呼べば、彼は心底安心したように笑った。それでも、違和感はどうしようもなく拭えない。
冷音が、俺を抱きしめて囁いた。
「皆、どうしようもなく、離れ離れになってしまった。
でも安心してよ、魂。俺は、」
カレンダーの日付は遠い未来を指す。
2人がいた世界はもう、ここにはないのだと悟った。
16歳の君に
「冷音、屋上行きたい。
……むかし、みたいに」
07.08 01:44
SDVX 烈風刀←ノア 8年後
夏の星空の下、線香花火の思い出が弾ける。8年前に見た泡沫の夢はきっと時効だ。かつて存在していた世界はいつか、皆忘れてしまう。どうしようもなく、離れ離れになってしまう。想っても、守っても、無駄に終わっていく時間だけがもどかしくて涙も出ない。
アクアブルーの髪だけが、時を止めていた。まだどこかで淡い期待を抱いているのだと、思う。早くかなぐり捨ててしまえばいいものを、わたしはまだ持ち続けている。待ち続ければ、きっと――恋情と憧れの区別すらつかなかったというのに今更夢を見たって。いつまでも夢にすがったって。
流れ星を待った。
深い青に包まれた空を見上げて、落ちていく。いつかは忘れてしまうだろうに、もう忘れてしまいなよ。語りかける夜空が憎い。わたしが憎い。零れる雫を拭って、もうこどもじゃないのだからと気丈に振る舞った。
鋏を、掴む。あの頃にすがりつくような長い髪が嫌いになった。
誰か誰か誰か誰か、わたしの手を止めて。
きみが褒めてくれた、この髪が、わたしは好きなのだから!
きっと貴女にも、好きな人ができますよ。
そう言ってひどく悲しそうに笑う姿が瞼の裏に蘇る。
――わたしは、きみの好きな人にはなれないの?
右手が止まった。
すがりつく夢は終わった。
「遅くなって、ごめんなさい」
きみは左手の薬指に綺麗な指輪をはめていたけれど、笑う顔はあの日と変わらない。
もう、もう時効でいいんだ。
きみはちゃんと、約束を守ってくれたのだから。
15歳のきみへ
「いつかおとなになったら、迎えに行きます」