ぐちゃぐちゃ。と嫌な音がする。
いっそ、耳が聞こえなくなった方がいい。
そんな風に思わせる音だった。音が聞こえるのは梵天丸の部屋からだった。
片倉小十郎は何事か、とバタバタと廊下を走り、梵天丸の部屋の前に来た。
グチゃグちャグチャグチャグチャッ
そんな不気味な音だけが聞こえる。
小十郎は失礼します。と言って中へ入った。
「…ッ!」
(何なんだ。この異様な臭いは…っ)
とてつもなく気持ち悪い鉄、つまり血の臭いが部屋に充満している。
梵天丸の後姿を見つけた小十郎は声をあげた。
「梵天丸さま!!!」
「……あ〜こじゅぅ」
梵天丸が振り返える。顔にも着物にも血がべっとりとついていた。
真っ赤。と言うには似合わなくってまるで洋酒のような色だった。
「梵天丸、様…?」
「なぁに?」
ニパッと笑っている梵天丸だったが今の小十郎には恐怖でしかない。
「この血は、一体…?」
「あぁこれは口うるさい家臣達の血だよ?」
「え…?」
「梵のこと、『気味が悪い』って言うから殺しちゃった!」
にこにこと笑う梵天丸。小十郎は下を向いてふるふると震えていた。
「こじゅぅ?」
「……っ」
小十郎は何も言えないまま、血の臭いが充満した梵天丸の部屋に呆然といるしかなかった。