俺様は旦那とのキスがこわい。

 何でこわいのかっていうと、わけがわからなくなる。だからこわい。




「佐助、よいか」


 よいか、なんて言ってるけど、がっしりと俺の肩を掴んじゃって、する気まんまんって感じがビシバシ伝わってくるんだけど。

 背中は壁に押し付けられてるし、これ、俺様の意見とか聞く気ないでしょ。ほら、答える前に顔近付いて来てるじゃないの。

 でもダメ、いやだ、俺様それこわい!



「だん、旦那、待って!」
「……なんだ?」


 唇が触れ合う寸前で旦那の動きが止まった。止まってくれたけど、ものすごーく不機嫌そうな声だ。


「あー……うん、ねぇ」
「早うしろ。待てぬぞ!」
「いやいや! いやー、ほら、それね、今度にしない?」


 自分の発言かと疑うくらい上擦った声で絞り出した言い訳は、あんまりなものだった。
 流石の俺様もこれはないと思う。

 うん、旦那の気持ちわかるよー、ため息も出るってもんだ。でも今度にして欲しいなー、なんて。



「戯けたことを」


 呆れ顔から一変、俺様の大好きな旦那の笑顔。
 けどそれを堪能する間は与えて貰えなかった。


「ん、む」


 今度は待てと言う隙もないほど素早く近づいた。柔らかい熱が唇から顔、頭のてっぺんから全身に広がる。


 旦那、旦那、だめだって。今度って言ったじゃない。
 やめて、俺様おかしくなっちまう。



「さすけ……」


 逃げようと思っても掠れた声で呼ばれると頭の芯が痺れて、それがじんわりと全身に広がってどうしようもなくなる。
 目眩が、くらくらする。わけが、わからなくなる、って。


「待っ、て、んー……」
「さすけ、さすけ」


 俺が旦那の腕にしがみつくことしか出来ないでいる間にも、口付けはどんどん深くなっていった。

 あ。舌は、も、やばい……旦那……。





 他のことが考えられなくなる。
 頭の中だけじゃなくて全身、旦那でいっぱいになっちまう。

 だから旦那とのキスはこわい。


(2010/07/01)


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嫌よ嫌よも、的な。私は夢見がちです。
キスの雨様に捧げます。


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