数時間に及ぶ県大会も漸く結尾を見せた。トーナメント戦になっており、我らが岬商柔道部は3番目。見事に難なく勝ち進み優勝を飾った。彼の引退と交際がスタートした後、良く二人で三五君を応援がてら試合を観戦しに行く。終わった後に声を掛けたりと仲は良い模様だ。うん、微笑ましい。今日もそうだった。私と、久君と飛崎さん、石川さんの先輩お二人。皆さんやっぱり口を揃えて『当然だ』と言う訳で。まあ、そりゃそうだ。今やスターの岬商業高校柔道部。特にそのポイントゲッターである三五十五君。彼は私の…。柔道業界ではそこそこ有名人だった久君を破ってからかなり注目を集める様になり、そこから火がついた。まあ、自慢と言うか何と言うか、情けなく聞こえるかもしれないけど私の久君もかーなーり強い選手でして。あっ私の久君って言っちゃった。まあ間違ってないか。
試合終了後表彰式も終え参加していた選手達が着替えとか水分補給とかお手洗いとかそれぞれ行動を始め会場も緊張が解け緩い雰囲気になっている。ざわざわと賑やかになった後席が疎らに空いていく。
「俺達も一旦下に降りるか、待っていたら三五達にも会えるだろ、何か一言言ってやろうぜ」
席を立ってそう言ったのは飛崎さんだ。流石パイセン気が利く。後顔が非童貞。
「そうするか、大丈夫そうか?樋口」
「ええ、賛成です」
石川さんが久君に声をかける。彼も良い人だ。久君が引退する前から彼を後輩として可愛がってた様だし、何かと気にかけてくれる。
「んじゃ、私も着いて行きますわ」
手を出してアピールする。石川さん、私を忘れてないかい。影が薄いなんてこたァ無いはずだよ。かくれんぼで速攻見つかるんだからね私。隠れるの下手だったから。
「おう、そんじゃ向かうか」
一同席から離れ1階に繋がる階段へと向かう。すると後ろの方から恐らく参加していた柔道部の二軍辺りの生徒だろう、制服を着ている集団が喋り始めた。
「おいなぁ、あれって樋口じゃねえか?」
「背中怪我したっつってたもんなあ、そんで試合観戦か」
「今じゃ三五の時代だもんなあ…可哀想なヤロウだぜ」
いやおいおいおい君達なんだい。本人いるし。聞こえてるし。あれだよあのデリなんちゃらがない、なんだっけデリ…デリヘルじゃなくて…デリ…あぁもうダメだセックス。じゃなくてだね。なんて葛藤してたら流石に堪らなかったのか石川さんと飛崎さんがすかさず
「気にすんな、あんなの」
「そうだ。おめえも立派だぜ」
と。せ〜んぱ〜い。尊敬するッスマジリスペクトするッス〜。
「はい、全然何とも思ってませんよ」
お。強い子だ流石久君。本当に平気そうだ、良かった良かった。が、まだじろじろこそこそ後ろの集団は飽き足らずま〜井戸端会議おばちゃんかよ〜おばちゃんの方がよっぽど好感あるわバカタレ〜…、ん?じろじろ…?
閃いた。
「久君」
「?何だ、えつ…」
つんつんと指で久君の腕をつついて、彼の振り返りざまに少し背伸びをしてごっつんこ。後挿入。挿入。挿 入 。
「!?」
さっきつついた腕をそのまま握って手を繋ぎながら。10秒経過。ん、久君舌大きいかも。温い。奥に引っ込んじゃってて全く絡められないのがなんか可愛い。後ろ?ポカンとしてる。後ついでに先輩達の顔がやばい。すいません。25秒経過。技有り1本取った。口を離すとちゅぱ、なんて音が鳴った。おぉ、卑猥卑猥。こっちを呆然として見つめてる集団に散れと手でシッシッとしてやる。ハッとした顔で逃げる様にそそくさと別の階段へと向かっていった。よっし平和が訪れた。
「……」
「……」
「……」
嘘地獄。私以外のメンバーお通夜かっつーぐらいだぁれも喋んない。
「……一応言っとくけど悪意は全く無いからね」
「いや、まあ、そうなんだろうが!!」
「樋口すっげー汗かいてるぞ」
飛崎さんの言う通り、久君顔真っ赤だ。かわいい。好き。
「凄いな乙幡は…」
石川さんが腕を組みながらこちらを見ている。パーティに入りたいのかな?なんつって。
「え、ありがとうございます照れます」
「褒めてねえんだよ!!」
「まあま、そんな怒らずに、そんな元気有り余ってるんならいつでも相手するんだぜ」
「だからそう言う話じゃねえんだって!!」
全く!と階段を降りる久君。背後から見てもわかる、顔と言うか耳が赤くなってる。へっへへ。やーい。ざまみろ。久君こんなにも可愛いんだぜ。