今日も今日とて、いつものマックで静雄と昼ご飯。今限定で安くなっているビックマックをもふもふする静雄は可愛い。
なんだ、その擬音。もふもふて。無表情を装いながらをそれをじっと見つめる。むしろ俺がもふもふしたいわお前に。
そして最後のデザートと言わんばかりにシェイクをキュイキュイしだして、思い出したように彼は口を開いた。
「…そういえば、シェイクってどんだけカロリーあんすかね」
「ん?あー…どうだろうな。マックは意外と高カロリーだからな。なんだ、太ったのか?」
「いや…高校の頃から、身長は伸びてんですけど体重はほとんど変わってねぇっす」
まじまじと、改めてその肢体を見つめる。確かに彼は、身長はあるくせに。その身はひょろりと折れそうなほど細い。
これなら俺でも絶対抱え上げられるぞ、と間違った方向に思考を働かせていたら。彼が不機嫌そうなことに気付く。
「なんだ?太ってないなら良かったじゃねぇか」
「…全然、良くねぇっす」
「何がだ?」
「俺、太りたいんす」
キュイキュイと、シェイクを吸い上げながら。むすっとしかめっ面。そんな顔も可愛いのだけど、その言葉が理解できない。
確かに彼は細い。特に腰付きがエロくて堪らないほど細い。でもそれは不健全な細さではなく、むしろいい具合で。
「はぁ?…なんで、」
「昨日、ちょっとした用があって新羅んとこ行ったんすよ」
「…ちょっとした用って、なんだよ」
「ちょっとボールペン刺されて。いやそれは別にいいんすけど、そん時新羅が、俺の体脂肪率は相変わらずすごいとか」
言うもんだから、と口を濁す。どうやらシェイクが無くなったらしい。本当に太りたいのか、2本目を悩んでいる。
ってそうじゃなくて、ボールペンって何の話だ。全然よくない、よくないぞお前。いくらお前が頑丈でもなぁ。
怪我したら当たり前のように心配するんだぞトムさんは、と腹の中になんとか押し留めて会話の続きを促す。
「体脂肪率?」
「はい…なんでも一ケタらしくて。それって、まったく肉が付いてないってことじゃないですか」
「一ケタ…いや、そいつはすげーわ、確かに」
なろうとしてなれるものじゃない。スポーツ選手などが体を作ろうとして、必死になって手に入れるものだ。
それをこいつは、当たり前のように手にしてる。全然いいことじゃないか、と俺は思うのだが。彼にとっては違うらしく。
「で?なんか言われたのか?」
「はい…新羅がべらべらと、最初はすごいすごいって…でもその内セルティ自慢になって…だから俺、太りたいんす」
「…は?」
意味不明、相変わらず今日も池袋の妖精は健在である。脈絡の無い会話には慣れたと思っていたんだがな。
まだまだだったようだ。静雄バイリンガルの道にはまだまだ遠い。これはもっと長く傍にいなくてはならない。
「マックって、カロリー高いんすか?ん、でも…今月もう厳しいしな…うーん、」
「おいおいこらこら一番重要なとこ省くな。その闇医者になんて言われたんだ?」
「…肉がほとんどないってことは、抱き心地が悪いってことだね。それに比べてセルティの豊満なラインは云々」
「――はぁ?」
キュイキュイと、それでも最後の一滴まで吸いつくそうと。未だ可愛い音を立てる静雄を前に、俺は固まった。
予想外の言葉が、出てきやがった。トムさんの思考回路は今、ちょっと機能停止中です。只今分析解析中。
一瞬の間を開けて、ようやくその会話の意味を理解した瞬間。ほのぼのとした会話が一気に瞬間冷却される。
「――静雄、お前、何で太りたいんだ…?」
「だから、抱き心地が悪いからっすよ。こんな細い体じゃ、抱き心地良くないでしょ…?」
「お前…誰かに抱きしめてもらいたいのか?」
「はい、抱きしめてもらいた…、…っ、」
誘導尋問をしたわけじゃない、断じて違うとあらかじめ言っておこう。まぁ、彼がそう言うのも想像済みだったが。
ぼんやりと、他の物事に囚われている時の静雄は。言葉が頭を通らずに口から零れることが多々あった。
だからそれが本音だと知れる。自分の発言にようやく気付いて、シェイクを握り潰し唖然とする彼からも明らかで。
「誰に抱きしめてもらいたいんだ」
「えっ、いや、あのっ…い、今の嘘です無し無し」
「誰だ」
じっと、眼鏡越しにその瞳を見つめる。むしろもう睨むように。それにびくっ、と彼は肩を震わすが。悪いが許せそうにない。
それは聞き逃せない発言だ。彼が誰かに抱きしめてもらいたいと思っているなど。相手を特定しなければ意味がない。
「誰だ」
「ちょ、と、トムさん顔怖っ」
「誰だ。いいから俺に言え」
食べ終わったんだから席を開けなければならない。ここは池袋のマック。今は昼時。客の出入りは激しく混雑する。
だが俺は席を退かない。彼の口からその声で答えを聞かない限り、トムさんは絶対ここを動きませんっ。
返答次第によっちゃ、攻め方を変えなければならないからな…ただただじっと見つめて、その返答を待てば。
「お、おれっ…い、一度でいいんで、その…と、トムさんに、ぎゅって、してほしいんすっ」
俯いて、真っ赤な顔を隠すように空になったシェイクをいつまでもキュイキュイし続ける静雄を…押し倒したい物凄く。
「――…」
「あ、あの、すんません!俺きめぇ…あ、あのでもその!か、金とか払いますし、できることなら何でもしますんで!!」
いつもなら、いつもの静雄なら。自分の発言を無かったことにしてくれだとか、忘れてくれだとか慌てふためくだろう。
でも違った。涙目で、顔を真っ赤にしながら静雄は。それでも発言を撤回することはなく、押し切ってみせた。
それは本当に、それを心より願っているということに他ならないんじゃないかと。解答に行きついた末に爆発した。
「…っ、え?あ、あのっ…と、トムさ…?」
「んー?何だー?静雄ー」
「え、あ、い、いや、あの、お、怒ってます?だって、か、顔が、」
「んー?いやー、全然怒ってないぞぉ?本当に、これっぽっちも、全く。ただ…いろいろ我慢してんだ、トムさんは」
それはもう、清々しい笑みが浮かべられた。菩薩のように、全てを無にした上に浮かべられた。今俺は、悟っている。
そうでもしないと、この公衆の面々で、自分を抑えられる自信がなかったからだ。ホントにお前は池袋の妖精さんだな。
いつもはしないそんな顔を彼は怒っていると捉えたのか。少し怯えた目を見せて。今の俺はそれすらいい刺激。
「静雄」
「は、はいっ」
「お前今…なんでもするって言ったな」
言ったか?と内容を確認するものではない。断言する言葉をわざと吐く。逃がしてやるつもりは、これっぽっちもない。
その言葉に、顔を青くサーッと染めていく静雄。おいおいいくらのトムさんでもそんな酷いことは…しないぞ?
「い、言いましたけど、そ、そのっ」
「その?」
「っ、と、トムさんの前から消えろ、とか、仕事辞めろ、とかは…こ、困ります。俺が寂しくて、死にます」
「っ、あーもう!お前は本当に!!」
がたっ、といきなり立ち上がったからか。静雄だけでなく周りの客も驚いてこちらを見る。柄にもなく大声をあげてしまった。
見るからに普通の職に付いているようには見えない自分が周りにどう思われているのかなんて今はどうでもいい。
食べ終わったトレーを手に持ち、静雄も慌てるようにそれを持つ。その片手を繋いだまま、トレーを無造作に置いて外へ。
「っ、と、トムさん!?」
「何でもする、つったろうが」
「ぅ、は、はい、言いました、けどっ」
後ろの彼の様子は分からない。けれど声が震えていた。掴んだ腕も震えて。あぁもうホントどうしようもないくらい可愛い。
どうしたらいい、トムさんは一体どうしたらいい。とりあえず人気の無いところまで彼を連れ出して、そして。
「――静雄、」
「は、はいっ」
「とりあえず、ぎゅってしてやるから、だからそれ以上のことされても…お前は文句言えないよな…?」
「え、あ、あの、それってどういう、んんっ」
可愛いことばかり零すその口を零して、とりあえずネクタイを外した。何でもするって言ったのは、お前のほうだからな?
無いもの強請りでいいから(俺だけ見てれば良いんだよ)
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旧痕の湯屋様より相互記念トムシズいただきました!
静雄かわいいいい!!
トムさんに思いっきりぎゅーてされなさい!!それ以上のry
かわいいなあトムシズかわいいなあ!!
もう本当ありがとうございます!
相互ありがとうございました!