by my side
2009.01.12
フットワークは軽めに。
終電ぎりぎりの電車に乗り込んで、繁華街を抜けてあの子の待つバーまで。
着いてすぐ日付は変わって、この日天気予報はこの街にも珍しく雪が降ると予想してた。
今日1日ついてなかったんだと彼女は呟いて、バカみたいに大笑いする合間にぽつりぽつりと悲しみを吐き出しては泣いていた。
馴染みの店なんだし、こんな時くらい気を使わなくていいのに、しっかり良いお客さんの枠内に収まり、笑顔を見せている彼女。
「酔ってごめんね」「来てくれてありがとう」を繰り返される度、悪態をついて笑ってみせるけど、本当はこちらこそちゃんと酔わせてあげられなくてごめんね、誰かに吐き出す事を選べる貴方でよかった、とありがとうを心の中で繰り返す。
普段から私は、彼女から何かを話してくるまで、自分から水を向けることはしない。
一緒に住んだりもしたけど、お互い収入源さえ知らなかった。
そんな彼女が、色々なものを抱えて張り詰めた横顔をしている。
私は何も言えなかった。
忘れられない人がいることは知っていた。
今日も彼女は彼を思って泣いていた。
自分の不運を少し哀れむ位いいのに。
言い訳が得意な貴方なんだから、そんなに辛いなら都合の良い嘘をついてしまえばいいのに。
彼への気持ちに対して彼女は悲しい程、忠実だ。
彼が与えた痛みに対して彼女はどんな時も忠実だ。
ろくに寝ていなかった私はコロナのライムに苦味を感じて、彼女のペースに合わせることが出来なかった。
模範的お客の彼女は、飲みたくない酒を飲んでた。
きっと彼女の胃の中は、あらゆる酒でどす黒いマーブル状になっていて、それがゲル化して彼女の軋む体にさらに負荷をかけた。
「雪降ったらいいのにね」
やっと言えたのは
その日唯一彼女が言った我が儘に同意する言葉だけだった。
うつらうつらする意識の中で聞こえてくるあの子の歌うスタンドバイミーに涙がでた。
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