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バサリと投げ捨てられたジョーカーを下に二枚のクイーンのカード。

その一枚と二枚の手札を出したことでリュウの手にあるカードは全てなくなった。
しかし向かい側に座るボッシュの手にはリュウより一枚多く、四枚のカードが残っていた。


そしてリュウは言った。



「あがり」

「……」

「ね、言っただろ、俺運だけはいいみたいなんだ」


少し照れたようなちょっと嬉しそうな笑みを浮かべて散らばったカードを集め始めた。

そんなリュウと対照的に、リュウに負けたという事に腹が立ち、意識しなくても眉間に皺がよった。



「おいリュウ、もう一回だ、もう一度勝負しろ」

「別に良いけど、ちゃんと自分で書類書い――」

「うるさいな、そんなことよりさっさと配れ」

「え、十五枚? 全部で?」

「全部でやろうじゃないか」




リュウによってゆっくりと配られ、お互い手元に微妙な小山ができた。







































その日の任務はよくあるバイオ公社から脱走した実験体の確保、または処分というやけに楽な内容だった。
そう、やけに楽なのに何故か書かなければならない書類が沢山あった。
またその書類一枚一枚が違う内容を書けと言っているならまだしも、ほぼ似たような内容の書類をひたすら書けと?
そして提出期限が明日の朝だと?



「やってらんねー…」



何考えてんだバイオ公社。
ばたりと下の、リュウのベッドに身を投げた。



「ボッシュ、寝るなら自分のほうで寝なよ」

「うるさいな…、ちょっと休憩してるだけだろ…」



一々上にまで行ってられるか、そう言って靴を脱ぎ捨て、ベッドにうつ伏せになる。
そのままゴソゴソと枕の下に手を潜り込ませれば指先に何か当たった。

好奇心でさらに探ってみれば、結構数があるみたいだった。



「なんだ…?」



枕を退かしてみれば、ちょうどベッドの枠とマットレスの間に沢山物が結構深く挟まっていた。


一つ、ワームマンっぽい人形をつまんで聞いてみた。



「リュウ、お前何だよコレ。こんなのどこで売ってんの?」

「え? あ、ちょっとボッシュ、人のベッドを勝手に探らないでよ…!」

「別にいいだろ? 何、エロ本でも隠してんの?」

「はあ?! 違うけどさ!」

「顔真っ赤、説得力ねぇよローディ」

「!」



クスクス笑ってやって、少しマットレスを持ち上げる。

多分あの真面目はそんなもん持ってないだろう、いや、そもそも興味なんてなさそうだ。
それを裏付けてくれるように隙間には何やらハオチーの形をしたキーホルダーやらナゲットのマスコットやら子供の玩具などが沢山あった。
そんな中でやけにボロボロの小さい黄ばんだ箱があった。



「今度はなんだ?」



さっきから本当にヘンテコな物しか出てこない。
この箱にもまだ詰まってるのかと少し期待しながら開ければ、意外にも外装と正反対の白さがあるトランプが出てきた。



「……なんだリュウ、トランプなんて持ってたんだ」

「あー…うん」

「ケースボロボロのわりに綺麗じゃん、あんまり使ってないのか…」

「………」

「………」

「……やる?」

「別にどっちでも」

「俺も、疲れたし…」



ただのトランプが出てきたことによって、さっきの変な熱が冷めてしまった。
バタンとベッドに体を預ける。
しかし先程少し持ち上げた際に間に挟まっていた物が下に潜り込んだままマットレスを戻したせいか妙な浮き上がりで不快感が生まれた。

眉を顰めて起き上がる。

さらに起き上がった際に見たくもない書類達が視界に入り眉間が深くなった。

そしてさらに視界に入るリュウの姿。
相棒は任務でロクに役に立たなかった癖に机に突っ伏せている。


何で疲れた?
せっかく捕獲したディクに蹴飛ばされたお前の代わりに俺が捕獲用の睡眠薬を打ち込んだってのに。
お前、疲れるかソレ。


握ったままだったトランプを見つめ、おい、リュウと声を掛ければうーん?と返事が返ってきた。
起きているようなので、言った。



「勝ったほうがあの書類の山を全て処理するってどうだ?」

「………いつもと変わらないよ、それ」

「それはお前が負けなければいい話だろ?」



何する?と真新しいカードを切りながら聞いた。

暫くすると相変わらず机に突っ伏せたまま、返事が返ってきた。


「大富豪…なんてどうかな、知ってる?」



流石に全部でやるのはめんどくさい、と返事をした。

リュウの提案でお互い手札を十五枚でやることにした。


あ、と思い出したように、いや、実際思い出したんだろうがリュウが言った。




「あ、8切り有りで階段なしで」



ルールはそういうことらしい。
















 * * * 
















あと少しで勝てると思ったが、また負けた。




「あがり」

「……」

「うーん、流石に全部じゃ手札多すぎだね」

「そりゃジョーカー二枚全部含めて五十四枚だぜ? 二人でやってるんだから半分の…」

「半分…の?」

「…ああそうか」

「え、何が?」

「もう一回やるぞ」

「えー…まだやるの?」



負けっぱなしなんだからやるに決まってるだろ、と言い返しリュウの手からトランプを奪う。

ちまちま一枚ずつ配られるのは苛々する。



「どっちから?」

「お前からでいいよ」



3が出て、7を出す。すると8で切られ流される。
リュウの手札には3はもうないだろう。
次に来るなら、4か5…

そう思っていたら6を二枚で出された。俺は9を二枚、11、12、13と交互に出し最後に1を出してリュウは出す手札がないようでパスと言った。

それもそうだ、2、四枚とも俺が持ってるんだ。最初から切り札のジョーカーを出すのは勿体無いだろう。
ジョーカーはお互い一枚しか持ってない。



ほぼ無言でゲームを続ける。



今度は俺が6を二枚出した。その上に7が重ねられ、さらに11を重ね12、13…



「………パス、かなぁ…」

「あっそ」



5を三枚、リュウは10を出しやがったので2を出してやった。



一瞬、少しリュウの表情が険しく見えた。



そのまま8を二枚、10を一枚、出したところ1を出された、2を出してリュウの手が止まった。

そこでふと思った。



「リュウ、お前革命とかしないのか?」

「んー……」

「どうせお前4を四枚持ってんだろ?」

「……なんでわかったの?」

「考えてみろよ」



止まっていた手を動かしリュウはジョーカーを出し、俺が言った通り四枚の4のカードを出した。

まぁ、覆そうなカードは在ったがあえて出さず。そのままリュウは9二枚出したり、8一枚出して、7を置いた。


もうこれは勝った。



「二人でやってるんだぜ? 俺が持っていないカードはお前が持ってるんだよ」


7の上にジョーカーを置き、残り三枚の3カードを投げ捨てた。



「それに、さっさと手札減らすゲームだしな」



ぐうっと上体を後ろに反らし、触りたくもない書類の山を突き付けて言った。



「な、大貧民のローディ様?」



最後に残ったカードを散らばらせたリュウはもうちょっとで勝てたのに、と深いため息とともに零し、言った。




「ほら、結局俺がやるんだ………」


























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藻。の野々市さんから、
相互リンク記念に素敵なお話を頂きました・・・!
ありがとうございました!^^*



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