ハマイズ 残暑というには暑すぎる9月。オレの最近の日課は部活帰りに浜田の部屋でアイスを食べることだ。 今日も部活帰り、泊まりはしないけれど浜田の部屋で立ち寄り、浜田と飯を食った後、オレはテレビを見ながらアイスを食べていた。と、そこに。 「いずみー」 やたら機嫌のいい声色で話し掛けられ。こういう時の浜田はろくなことを考えていないことが多いから、簡単に振り向かないほうがいいのだろうけれど。 そう思ったのは反射で振り向いちまって、一瞬の眩しい光に捕らえられた後だった。 突然のことに驚いて、思わず落としかけたアイスを慌てて咥えなおす。フラッシュらしい光にチカチカした目で見ると、浜田はヘラリと笑った。そしてその手にはデジカメが。 「撮っちゃったー」 あんまり写真撮られんのが好きじゃねくて、おまけにいきなり撮られてびびったオレとは対象的にヘラリとした顔はイラつくもので、思いっきり睨んでやった。 「撮っちゃったー、じゃねーよ。なにすんだよ」 「や、ゴメンね。アイス食べてる泉が可愛くて」 「はぁ?ワケわかんねーし…っつか、何それ」 指したのはもちろん浜田の持つデジカメだ。この前来た時にはこんなものはなかった。ハイテク?な代物を持てる経済力が浜田にあると思えずにそう聞くと。浜田はよくぞ聞いてくれました、とばかりに顔を輝かせた。 「それがさ、商店街のくじ引きで当たってさ」 「マジで?」 「マジマジ!オレすごくね?」 「へーえ、すげぇじゃん」 普段の浜田はくじ運が強いわけでもなく。とゆーかどちらかと言うと不幸体質気味だと思う分、素直に思ったことを言うと浜田はニッコリと笑い。 「でしょ?それが昨日の話で、記念すべき最初の1枚は泉を撮りたいなぁと思ってたんだよね。やっぱ恋人だし?」 どういう理屈でそんな結果にたどり着くのか知らないけれど、こっ恥ずかしい考えに、こっ恥ずかしい言葉を照れることなく言ってくる浜田にこっちが照れてしまう。 「はっずかしーヤツ…」 「そう?ってか、泉顔赤い」 そう言うと、シャッターチャンスとばかりに浜田がカメラをこっちに向けてきやがった。これ以上勝手に撮られて堪るかと、慌ててそれを手で押し止めた。 「いきなり撮んのヤメろっつの」 「えー、日常のヒトコマ的なのが撮りたいんだけど。いいじゃん減るもんじゃないし」 「や、神経が磨り減る」 「んなの気のせいだって」 「…ヤメなきゃ盗撮野郎って呼ぶぞ」 「ヤメます…」 流石にその言葉は効いたのか、まるで犬のように浜田がしゅんとうなだれる。写真ごときに粘って浜田が拗ねたわけでオレは悪くないはずなのに、バツが悪い。 「…一緒になら撮ってやっていーぞ」 「へ、ホント?」 「ホント」 そんな浜田を見かねて思わずそう提案すると、ゲンキンな浜田の顔がさっきまでの笑顔に戻る。二人がちゃんと写るよう、自然に浜田が顔を寄せてきて、ドキリとした。 「はーい、撮るよー」 「どーぞご勝手に…」 シャッターを押す、ぽちり、という小さな音。 「よーし、2枚目完了ー」 鼻歌でも歌い出しそうに機嫌がいい浜田が、こっちを向く。 「これからもいっぱい写真撮ろーな」 「…まぁいいけど」 「んでいっぱい思い出作ろーな」 「ホント、恥ずかしいヤツ…」 口では自分でも可愛くないことを言いつつ、内心ではいっぱい思い出を作るぐらいには浜田はオレの傍にいるのだと安心してしまう自分も浜田並に恥ずかしと思うんだけど。 明日へと、ずっとつながっていけばいい。 ――ちなみに、浜田のデジカメ2枚目のオレはファインダーから目を逸らしたまま、結局は赤くなって写っていたのだった。 End 2010/09/14(Thanks 2nd anniversary!!) →あとがき |