『ずっと前から好きでした』




ハマ→←イズ





多分その前からずっとそうだったんだろうけど、浜田のことが好きだ、と気付いたのは中2の時だった。

同じ男を好きになってしまったことに、戸惑った。そんなことがあるはずがないと否定して、でも否定しきれずうろたえて。そんな風に何ヶ月かを過ごしてるうちに、浜田は野球を止め、卒業してしまった。

もちろん何も言えず仕舞い。忘れなきゃ、と思った。実際、部活やら受験やらでほとんど忘れかけていた、そんな今年の春。浜田はまた目の前に現れた。しかも“先輩”ではなくて“同級生”として。

そんな浜田は、今、台所で今日の晩飯を作っている。同じクラスになったオレらは自然とツルむようになって、こうしてオレが浜田ん部屋に遊びに行くようになった。今日みたいに、部活がミーティングだけの日は飯を食わせてもらうことも多い。

単なる“先輩後輩”だった中学ん時からすれば、今の、仲のいい“友達”という関係は恵まれているんだろう。

だけど、そんなのじゃ足りない自分がいる。

今だってほら、開きっ放しのドアから見える、浜田の広い背中が欲しい。オレだけのものにしたいと強く、思っている。

…だから、今日の昼、聞こえてきた浜田の声にガツンと殴られたような衝撃を受けた。

どうしてさっさと寝てしまわなかったんだろう。そしたらあんなコト聞かずにすんだのに。





* * * * *

昼休み、飯を食って腹は満たされ、いつも通り眠気が訪れた。机に突っ伏してうとうとするまではよかったけれど、ハタと7組に用事があったのを思い出した。

今行こうか、後に回そうか…うだうだと決めかねる、そんな時だった。

「なぁ、浜田って彼女いんのー?」
「…はぁ?」

唐突に聞こえた声の主は田島と浜田。話の内容に驚いて思わず顔を上げそうになったけれどそれをぐっと抑えた。

「…な、なんでいきなりそんな話になんだよ」
「女子が噂してるの聞いたから。なんか浜田に告っても絶対断られるらしいって言ってたぞ」

割とすぐ近くから聞こえる、ねぇ、なんでー?という田島の声は無邪気で、でも興味津々ってカンジだ。浜田は困っているのか、あー、とか、うぅ、とか唸ってる。

「その様子はいるってこと?」
「…彼女はいねぇ、けど…」

“好きな子はいる”

なんだかやたら真剣な声色で浜田はそう言ったのだった。





* * * * *

浜田はその後、興奮した田島に色々と聞かれていて、その話をまとめると、浜田の好きな人は可愛くて、素直じゃなくて、でも本当は優しいらしい。でもって部屋によく来るらしく、浜田は上手くいくんじゃないかと思ってるらしい。

そんな人がいるなんて一言も聞いたことがない。っていうか、そんなのほぼ付き合ってる状態じゃないか。オレが入り込む余地なんてカケラもない。





今日の夕飯はカレー。出来上がったルーをかけて居間に運ぶと泉がぼんやりと座っていた。いつもなら、匂いがすると台所までやって来て、早く早く、と急かすのに珍しいことだった。

「泉ー?飯出来たよ」
「あ…?ああ、サンキュー」

泉はハッとしてから慌ててそう言った。そして、うまそう、といつものように言ってから食べ始めたものの、なんだか元気がない。いつもなら、皿まで食っちまうんじゃないかって程の勢いで食べるのに、心ここにあらずってカンジでカレーを口に運んでる。

「泉、なんかあった?」
「…え?なんでだよ」
「や、元気なさそうに見えたから」

なんかあるなら、話くらいは聞くよ?そう言うと、泉は少し迷う様子を見せてから口を開いた。

「…今更だけどオレ、お前ん部屋来ていいのか?」
「…は?」
「いや、だって今日、お前言ってたじゃん。その…好きな子いるって」
「き、聞いてたの」
「たまたま聞こえた。っていうか、その子よく遊びに来るんだろ?オレ、邪魔じゃね?」

昼休み、確かに田島に突っつかれていろいろ喋っちまったけれどまさか泉に――好きなヤツ本人に聞かれてるなんて思っていなかった。いつもは真っ直ぐ人の目を見る泉がこっちを見ない。すごく、気まずかった。

多分その前からずっとそうだったんだろうけど、泉のことが好きだ、と気付いたのは中学の時だった。

同じ男を好きになってしまったことに、戸惑った。そんなことがあるはずがないと否定して、でも否定しきれずうろたえて、受け入れて。だけれど、野球を止めてどうしようもなくなってたオレは、とてもじゃないけど好きだ、なんて言えなくて。

そのまま卒業してしまったオレは忘れなきゃ、と思った。実際、慣れないバイトやら留年のことでほとんど忘れかけていた、そんな今年の春。泉が目の前に現れた。オレが悪いんだけど、“同級生”として。

同じクラスになったオレらは自然とツルむようになって、こうして泉がオレん部屋に遊びに来るようになった。今日みたいに、部活がミーティングだけの日は飯も一緒に食うことも多い。学校にいる時より二人の距離は近い。コイビトのそれなんじゃないか、って思っていた。

だけど、泉は言われていたのが自分だって気付きもしない。ということは、オレが上手くいきそう、だなんて浮かれてたのは思い上がりもいいとこなんじゃないか。

何を言おうか迷っていると、泉は沈黙をイエスととったのだろう。

「わり、オレ…帰るわ」

そう言うと立ち上がり、部屋から出て行こうとした。引き止めないと、と咄嗟に思い慌てて泉の腕を引っ張る。泉はよろけたけれど、こっちを振り向いた。

「なっ、なんだよ」
「いていいんだよ、っていうかいて欲しいんだよ!」
「なんで」

思わず叫んだ言葉に、なんで、と返され一瞬ぐっとつまる。だけど、これってチャンスなのかも。顔を背けようとする泉に、ちゃんと聞いて欲しいんだ、と言うと泉はオレと躊躇いがちに視線を合わせた。

「あのね、さっき言ってたのは泉のコトだから」
「…は?」
「オレが、ずっと前から好きだったのは泉なんだよ」

しっかりと泉の目を見てそう告げると、泉は元からでっかい目を更に大きく見開いた。

「う、ウソだ…」
「ウソじゃねぇって」
「だ、だって、可愛いって」
「可愛いよ、泉は」
「上手くいきそうって」
「…泉もオレんコト好きでいてくれるかもって思ってたんだけど、それってオレの勘違い?」

頼むから、否定してくれ

掴んだ手にギュッと力が入った。オレの手は、びっくりするぐらい冷たい。

「勘違いじゃねーよ、バカ浜田」

そう呟いた泉の顔全体がみるみるうちに真っ赤になった。掴みっ放しの腕も、燃えるように熱くなる。望んでいた言葉が降ってきて思わずそのまま腕を引いて腕の中に閉じ込めた

「泉、好き。オレと付き合って」
「…おう」

今までで一番間近にいる泉はぶっきらぼうだけど、とてつもなく可愛かった。





End





◎あとがき◎
フリリク第6弾です。リクエストが『両片想いで浜田から泉に告白する話』でした。
2番目にリクエストいただいたのですが、一番最後になってしまいもうしわけありません。
二人がそれぞれ相手のことを好きだっていうくだりを書いたら思いがけず長くなりました。伝わっていたら嬉しいです。
それではリクエスト本当にありがとうございました!!









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