『世界が闇に沈む前』 ハマイズ 昨日の喧嘩の原因は、後になってみれば思い出せないくらいに些細な事だった。 だけど喧嘩の爪痕は深くて、――例えば泉の腫れたまぶた(多分、泣いたんだろう)だとか、気まずい雰囲気だとか、喧嘩したせいですっかり忘れてた宿題だとか、そのせいで居残り喰らったことだとか――。 とりあえずそんなものを抱えながら、オレと泉は放課後の教室にいた。放課後になって数時間、夕陽で真っ赤に染まった教室にはオレら以外には誰もいなくてすごく静かだ。聞こえるのはグラウンドのサッカー部のざわめきと、泉がシャーペンで居残り課題を解く音だけ。 さっきからオレは課題に全然集中出来ずにいて、夕陽に染まった泉の背中を見ている。仲直りらしきものは一応したのだけれど、なんとなく話し掛けづらくてオレらの間に会話はない。 “もしかしてこのまま終わっちまうかも” 昨日泉が泣きそうな顔をしてウチを出て行った後、そう思ったくらいにでかい喧嘩だった。あんなのはオレらの間で初めてだったし、いきなり元通りっていうのは難しい気もする。 些細な喧嘩ならガキの頃にたくさんした(泉は意地っ張りで負けず嫌いで、よくオレに突っ掛かってきたから)。だけれどオレらは陽が暮れる前にいつの間にか元通り仲良くなり、まるで何もなかったように“また明日”と約束をして家路に着いていた。仲直りは簡単なことだったハズなのに。 いつからか、オレらはあまり喧嘩をしなくなった。そしてその分仲直りが下手くそになってしまった。どうしたら空いてしまった、この耐え難い距離は埋まるのだろう。 そう考えていたら泉がこちらを振り向いた。目を逸らす暇なんてあるわけがなく、泉の大きな目に捕らえられる。泉は立ち上がりオレへと近寄ってくる。オレもつられて立ち上がった。 「手」 「…え?」 「さっきから手ェ止まってんぞ」 「あ、ああ…考え事してた」 「またダブる気かよ」 じろりとオレんことを睨む泉はいつも通り。ぶっきらぼうな言葉もいつも通りだ。だけど声は緊張したかのように少しだけ震えていた。 「どーでもいいケド、さっさと終わらせねーとおいてくぞ」 「…一緒に帰るの?」 「…嫌なのかよ」 「や、そうじゃなくて…なんとなく気まずかったから、今日は無理かと思った」 「引きずんの、性にあわねーんだよ」 それに、浜田を遠く感じるのは一晩で十分だ 泉はオレから視線を逸らしてそう小さく呟いた。赤く見える頬は沈みかけている夕陽のせいではないだろう。すぐ赤くなるのもいつも通りの泉だ。だけれど前よりも、ずっと愛おしい。 「…そうだね。オレももう十分だ」 たまらず泉を抱きしめて、そう言った。 End ◎あとがき◎ フリリク第3弾です。リクエストが『夕暮れの教室でふたりっきりの居残りの話。ちょっぴり切ない』でした。 大変お待たせして申し訳ありません! 居残り=宿題忘れてた!みたいなイメージで、じゃあ宿題忘れるってどんな状況?→喧嘩とか?…と考えたらこのような話になりました。 夕陽と絡めて切ない感じにしたつもりなんですが、どうでしょう?…お気に入りいただけたかドキドキしております。そうだとすごく嬉しいです! それではリクエスト本当にありがとうございました!! |