『トリアングル』 浜、水→泉 * scene 水谷 * 黒板の上に掛けられた時計は4時間目終了5分前を指している。つまり、あと5分待てば昼休みがやってくる。 部活で朝からヘロヘロ、お腹ぺこぺこだから、昼飯はとーっても重要だ。だけど昼休みはオレにとって、もっと重要な意味を持つ。 昼休みは好きな子に会いに行ける&一緒に飯を食える貴重な時間なのだ。 オレの好きな子、つまり泉はチームメートだから部活中にももちろん話す時間はある。だけれどそれじゃ話し足りないし、何より泉は食べ物を口にしてる時はいつにも増して、すごーく可愛い。 ご飯を頬張る姿を例えるなら森からひょっこりと現れたリスってカンジ。餌(?)じゃないけど、ついついおかずとかわけてあげたくなっちゃうんだ。この前ミニハンバーグを一つあげたら満面の笑顔をもらっちゃって(いや、泉はオレに笑顔をくれたつもりがないのはわかってるけど)。その顔を見たら、 泉の笑顔がおかずならオレご飯いくらでも食べれるよー! なんてこと思ってしまったわけで(おかずって変な意味じゃなくて、ね)。 だから、オレは今日も授業終了のチャイムと同時にダッシュする。隣の隣のクラスの泉に少しでも早く会うために。 そんなオレを観察する阿部の視線は冷たいけれど、泉にはお邪魔虫がくっついているけれど、そんなのには負けてられないんだから! * scene 浜田 * 「泉ぃー、一緒に飯食おう」 4時間目終了をつげるチャイムが鳴って約30秒。恐らくチャイムが鳴るなりダッシュして来ただろう隣の隣のクラスからの訪問者は、今日も甘えたような声で泉に纏わり付いている。 「おお、別にいいけど。いつも通り田島達も一緒だぞ」 「うん、わかってるよー」 そんな水谷に対して泉は大して考えもせずに今日もOKを出してしまった。人の気持ちに聡いくせに、自分絡みの恋愛にはとことん鈍感な泉だ。水谷の下心丸出しのでれでれ笑いには全く気づいていないのだろう。正直言ってそれを黙って見てるのは、すげーはらはらさせられる。 それが可愛い元後輩が男同士の恋愛に引っ張りこまれるのを心配して、だったらどんなによかっただろう。だけれど現実は泉に3年も片想いしてるオレがいるわけで、だから最近ぽっと沸いたように出た恋敵の存在は不愉快極まりないわけで。 我ながらガキっぽいと思いつつ、自然と水谷を睨みつけるように見てしまう。するとちょうど目が合った水谷はでれでれ笑いをはたと止め、オレのコトを睨み返してきた。おいおい、さっきまでの笑顔はなんだったのかよ、と思うと尚更腹が立って来る。 いい度胸じゃねーか。てめぇみたいな野郎には絶対泉のことは渡さねーからな! * scene 泉 * いきなり机の中でがたがたっと音がしたものだから、オレの周りのヤツラ全員が驚いて(三橋なんて箸でつかんでたエビフライを落っことしかけて)こっちを見た。 「わり、携帯」 謝りながら振動し続ける机を漁って、いつの間にか奥まで入ってしまった携帯を引っ張り出した。ディスプレイに表示された名前はおふくろだった。オレはメールを確認してから携帯を閉じて鞄の中に放り投げて飯の続きにとりかかった。 「浜田、今日の夕飯コロッケだって」 「お、マジで?」 食いながらメールの中身を伝えれば、右隣りに座る浜田の顔がパアッと明るくなる。 「7時くらいに持ってく」 「サンキュー。おばさんによろしくな」 「浜田と泉は今日コロッケかぁ、いいなぁ」 今も飯食ってる最中だってのに、田島がよだれを垂らさんばかりにそう言った。すると、なんでか知らねーケド左隣の水谷が眉間に皺を寄せて呟いた。 「…泉と浜田って一緒に夕飯食ってんの?」 「あ?そだけど?」 オレが肯定したら水谷はずいっとオレに近づいた。思わずのけ反ると、水谷はやたら真面目な顔をして、 「なんで?」 と聞いてきた。なんでっつわれても…っつかなんでそんな真剣なんだよ、と思いつつ、 「週刊誌読みに行ってっから、ついでに」 一人暮らしは時々すげー暇らしく、そんな時のために浜田はマンガの週刊誌を毎週買っている。食費で小遣いが消える&立ち読みが面倒臭いオレはおふくろの料理を代金変わりに浜田のトコにマンガを読みに行ってるのだ。 そんな感じのコトを説明すると、ふーん、と水谷は何か考えてるように頷いて、 「それならオレも買ってるから貸すよー?わざわざ浜田ん家なんか行かなくても学校持ってくるケド」 「…なんかってなんだよ」 水谷の提案に浜田はじろりと水谷を睨んでそう言った。すると水谷も、べっつにー、と浜田を睨み返す。 浜田と水谷って仲が悪いんだろうか。 ここ最近水谷が9組に飯を食いに来るようになってから、そんなことを何回か思う。こーして睨みあったり、厭味っぽいことを言ったり。 浜田はもともと温厚だし、水谷だって多少KYかもだけど人を極端に嫌わなさそーで、どっちかっつーと同じようなタイプなのになんでこーなるかなと思う。 「泉はツミツクリだなー」 バチバチと火花でも散らしそうな二人に溜息をつくと田島がにやりと笑って言った。 「…なんでそこでオレの名前が出てくんだよ」 「い、泉クン、気づいてない、の?」 「泉ってば鈍感ー」 「はぁ?」 三橋にまでんなこと言われてオレはますますこんがらがる。何に気づいてないだって? そんなオレをよそに、田島と三橋は、オレらは中立だよな、とかなんとか言っている。残りの二人も相変わらずで、一人この場の状況が全くわからないオレは、半ばヤケ気味に残りの飯をかっこんだのだった。 End ◎あとがき◎ 浜田と水谷で泉を取り合いというリクエストで書かせていただいた、フリリク第2弾でした。ど、どうでしょう?ほのぼの、とのことでしたが浜田と水谷が完璧争いモードになってしまいました…。泉への二人の想いが強かったことにしていただくと嬉しいです(汗) 長らくかかってしまい申し訳ありません。少しでも気に入っていただけるよう願うばかりです。 リクエスト、本当にありがとうございました!! |