高緑(付き合ってるのか付き合ってないのか微妙。ナチュラルにホモです。あの有名な曲をイメージして書きました。)
 2012.09.22 Sat 22:31
Milk Tea


降水確率80%の夕方、豪雨にやられたずぶ濡れの影が二つ。

「…さっすがおは朝。…外れてくれねぇな。」

小さな影が呟くと大きな影はバツの悪そうな顔で真っ黒な空を仰いだ。



-コレがある限り絶対に大丈夫なのだよ-

その日、星座占い最下位の緑間真太郎は自慢気に左手を突き出してそう言った。
手のひらには魚の形の醤油入れ。どっからその自信は湧いてくるんだよ、と思いつつもエース様の人事に疑いのない高尾和成はそれなら大丈夫だな〜と軽く相槌を打っていた。

醤油入れ様のご利益か、圧倒的数字の降水確率に反して空はこれでもかと言う程に日を照らしている。
ああ半袖着てくりゃ良かったと零す高尾は長袖シャツの下に柄物のTシャツまで着込んでいた。

「お前の今日の順位は9位なのだよ。ラッキーアイテムの無い時点で人事を尽くせないのは当然の結果なのだよ高尾。」

ふん、と鼻を鳴らしながら眼鏡のブリッジを掛け直す緑間にへいへいと呆れたように返事を返した時、一限目のチャイムが鳴った。



昼休み、急に雲行きが怪しくなった。
それと同時に緑間は眉間のシワを一層濃くして左手を見つめる。ラッキーアイテムの魚は茶色を失い、透明に透き通ってしまっていた。

「悪い緑間!!俺醤油ナシの卵焼きとかありえねえんだわ!」

弁当の卵焼きに醤油を掛け忘れたクラスメイトは事の重大さに深々と頭を下げた。
緑間が席を立った数分の間に机上の醤油入れの中身は男子生徒の腹中に消えてしまったのだ。

「便所にも持っていくべきだったのだよ…!!」

「いや、それはナイっしょ!」

ぶははっと笑いながらツッコミを入れる高尾に対し、緑間は最悪の状況を打開しようと唸り声を上げていた。
クラスメイトにはもういいのだよと不満気ながらプレッシャーからの解放を許した。

「…醤油の入っていない醤油入れでも通用するだろうか…。」

「…無理なんじゃね?」

放課後、二人の予想は辛くも実現する事となる。



「意味わかんねえ!緑間ァ!お前、他人に優しくしたりしてねえよな!?」

慣れない事をすると天候が荒れる、とでも言いたいのだろう。
宮地は豪雨が叩きつける体育館の窓ガラスを気だるそうに見つめていた。

「…ラッキーアイテムの醤油を紛失してしまいました。」

珍しくしょんぼりした緑間にかける言葉も見つからないのでとりあえず尻に蹴りを入れた宮地の元に大坪が駆け込んで来た。

「今日の部活は中止!すぐに帰宅するように!」

部活終了後が豪雨のピークだからと続き、体育館には安堵やら溜息やら緑間を含む部員達の声が響いた。

「どーやって帰るよ?俺ら。」

チャリヤカーは今頃びちゃびちゃで緑間が座るとも思えなければ、尋ねた高尾自身、漕ぐ気もそんな体力も無かった。
まあ高尾が漕ぐ前提で物を考えているのは別として、だが。

「…バスで帰るのだよ。」

浮かない顔で帰り支度をする緑間は醤油入れを握り締めて部室を後にした。
のだが、一瞬にして緑間は冷たい雨に打たれ高尾の元へと帰ってきて一言。

「高尾、お前もくるのだよ。」

「わーってるって。」

存外、高尾は緑間に甘いと思う。同時に、緑間も高尾をどこまで信用しているのかと言いたくなる。高尾を連れていった所で天気がどうなる訳でもないだろうから。



そうして話は冒頭に戻る。
途中、寒さに震えた緑間に高尾は無いよりマシだろと一回りサイズの小さいシャツを羽織らせた。お互いジャージはびしょ濡れで余計に冷えてしまいそうだったからだ。

「…その、」

言葉を詰まらせた緑間の視線はずっとバスの時刻表と高尾の顔を行ったり来たりしている。

「別にいいって。真ちゃんは悪くねぇよ。」
そう言って笑う高尾に緑間はいつも助けられる。
(すまなかった)
その一言が素直に言えず、
(ありがとう)
などと言える訳もなかった。

「…そうか。」

「だからそんな顔すんなよ!」

その時の緑間は相当酷い顔をしていたのかもしれない。
思わず高尾は緑間を抱きしめてもう一度「大丈夫だ」と耳元で囁いた。

「真ちゃんは大バカなのだよ!」

何だと、としかめっ面をした緑間に優しい笑顔で高尾が返す。

「今日の降水確率は80%!真ちゃんがラッキーアイテム紛失しようと、流石におは朝には及ばない領域だからなのだよ!」

にひひっと笑った高尾は出来るだけ自分の折りたたみ傘を緑間の方に傾けた。
些細な気遣いも、器用な励ましも、鈍感な緑間にはきっと届いてはいないかもしれない。
そんな事は問題ではない。ただ、緑間と居られるだけでいいと高尾は思う。

「あ、そーだ!」

そう言って高尾は緑間のポケットに何かを忍ばせる。

「何なのだよ?」

確認しようとした緑間の手を握り高尾がいきなり走り出した。
緑間の制止を振り切って坂道を駆け上がる。
喚く緑間を他所に、雨脚はだんだんと弱まっていった。

「もう大丈夫かな〜」

空は晴れてオレンジ色の夕焼けを覗かせる。
隣には不思議そうに高尾を見つめる緑間。

「…何故晴れたのだよ。今日の俺の運勢は、」

そこまで言いかけた言葉は高尾に飲み込まれた。

「んー…」

突然のキスに戸惑い赤く染まる緑間の頬に雨とは違う、冷たい感触が走る。

「流石にお汁粉は無かったわ。これで我慢してくんねぇ?」

缶には有名なカフェのロゴと香ってきそうなティーカップのイラスト、緑間がお汁粉の次に好きなミルクティーだった。

「…どこで…」

「さっき。真ちゃん喉渇いてんだろ?お汁粉大丈夫ならミルクティーでもおっけーっしょ?」

またも優しい笑顔でミルクティーを差し出した高尾は緑間の耳にイヤホンを入れる。

「服乾くまで。もーちょっとだけ一緒に居てくんねぇ?」

聴こえてきたのは高尾がいつも聴いていた切ない恋の歌で。
緑間の瞳からは、嬉しいやら悲しいやらで大粒の涙が零れていた。

「…高尾…何でそんなに、」

(優しくするのだよ)

男同士なんておかしい、背が高くて口下手で可愛げもない、と言ってくれればいいものを。
そんな不安を拭い去るような高尾の優しさが胸に痛い程突き刺さる。

「真ちゃ…」

言いかけた高尾の体が温かさに包まれる。
「好きなのだよ」と、
震えるか細い声が耳元に響く。

「俺も好き。大好き。」

泣きじゃくる背中を抱いて、
とっくに乾いたシャツの裾を握り締めた緑間にもう一度だけ優しいキスをした。



「…ばか尾め…」

帰宅した緑間のポケットには瓶の形の醤油入れ。醤油も充分に入っている。
おは朝なんてと言ったクセに、緑間の順位だけはチェックしてくれているのだろう。

【最下位は蟹座のアナタ!今日は一日おとなしくしていよう!思わぬ災難が降りかかるかも!ラッキーアイテムは醤油入れ!醤油があれば何とか乗り切れるかも!恋愛運は上々!気になる人にハートを鷲掴みされちゃうかも!?】

おは朝は嘘をつかない。
緑間は改めてそれを思い知らされたが、恋愛運に関しては的中率は90%と言った所か。

(俺の心など、とっくのとうに高尾にくれてやったのだよ。)



「…さっすがおは朝。…外れてくれねぇな。」

(もう少し雨の余韻を楽しみたかった…なんて、贅沢だよな。)

二人の間に水入らず。

-fin-


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