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最近の悩み。
それは、職場の噂話だろうか。
私……ベネツアは、とある男爵家の長男の侍女をしていたりする。優秀かどうかは定かではないけど、メイドからのし上がったと考えたら、そこそこ優秀と言っても許されるのでは?
そして、そう、悩み。
最近ちまたで、使用人と主の恋愛を描いたロマンス小説が流行ってしまった。もちろん流行る分には良いし、なかなか面白かったけど。
「ベネツアさぁ〜ん。ウィリアム様がお呼びですよぉ」
……何故か、私と主のウィリアム様が良い仲だと思われてしまった。何故!?
今だって、侍従とウィリアム様の今日の予定を確認しているところに後輩が冷やかしてきて。
イラッとギクッを足して2で割った表情をしてしまう。
「違う、って言ってるでしょ」
「え〜?でもぉ」
「もうね、この際はっきり言いますけど、私には恋人がいます!素敵な、ね」
そう、あまり言い触らされると迷惑なのだ。私には、お世辞にも寛容とは言い難い恋人がいるのだから。
「え〜?でもぉ」
え〜?でもぉ、じゃないわよ!
「ベネツアさんが言わなきゃ、分からないじゃないてすかー。どうせ言ってるのなんて、あたし達だけなんですから。ねえ、セト?」
私が話していた、新入りの侍従に話が振られた。
「え……あはは、そうですね。実際にウィリアム様と何もないなら、あまり慌てないほうが良いのでは?先輩」
「……。貴女、早く仕事に戻りなさい」
私を冷やかしていた後輩を戻らせ、私はセト──恋人を振り返った。
「よく言うわね。あんたが何でもかんでも疑うから、私はこんなに焦ってるのよ」
「焦りが足りません。ベネツア、本当に違うなら、さっさとこの噂を消してくださいもしくは、」
ぎゅっと引き寄せられ、何度かキスが落とされた。
「結婚しましょう。僕がもっと頑張って、貴女よりも給金がよくなったら」
「そんなのすぐじゃない」
いくら立場・年数が違っても、この世界は男性のほうが優位にできている。
「ええ、ですから、すぐに結婚しましょう。正直ね、ウィリアム様を見るたびに苛々するんです」
「は、はあ!?あんた何言ってるのよ!ウィリアム様は主人よ!?」
「僕だって、主よりも恋人を優先してしまう僕が嫌です。だから、奥さんになってくださいね、先輩」
わざとらしい先輩呼びに、私はため息をはく。
……ま、結婚して噂がなくなるのならそれくらい……と、思う程度には、私もセトを愛しているのだ。
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