「…皆、ボロボロね……」
「……あぁ。」

部屋の前に立っていた俺に朽葉がそう声を掛けた。

皆、というのは俺達、暁の身内達だ。
つい先日起きた海の向こうの国との争いで奴等は皆戦地に駆り出された。

そして、死者は出なかったものの、全員が重症だった。
身体的なことだけではなく精神的にズタボロになっていた。
あんなに騒がしかったアジトが今では静まり返っているのだから不思議な感じだ。

「…回復した奴はいねぇのか。」
「えぇ、残念ながら。
………それで、サソリ。カゲリさんはまだ意識が戻らないの?」
「…。」

俺のちょうど後ろにある、部屋。
そこに俺の片割れ…カゲリが今も意識が戻らぬまま、苦しんでいる。

カゲリはイオリを庇って深い傷を負った。
しかしその後、暴走していた未来を止めさせる為に気絶させて、傷が塞がらぬ体のまま傀儡を口寄せして、戦ったらしい。

本来体が弱いカゲリが大量のチャクラを使って無事なわけもなく。
今もチャクラ不足が続いている。
このままじゃ意識が戻るか危うい。

「…カゲリは、俺が治す。」
「え…?サソリが…?」
「………アイツは俺しか治せないからな。」

片割れだからこそわかることだってある。
他の奴には決してわからないこと。
…いや、わかってもらいたくないこと、かもしれないが。



朽葉に他の奴に中に入らないようにと伝言して、俺は薄暗い部屋の中へ入った。

部屋には、苦しげなカゲリの息使いと、俺の足音だけが響く。

ベッド近付いて、そこに横たわるカゲリの顔を見る。
顔は苦しそうに歪んでいて、大量の汗をかいていた。

まったくチャクラが足りていなくて、自分の体調管理さえできていないのか。

「……馬鹿な奴…。あの時、俺についてくればこんな事にならなかっただろうに…」

そう呟いて、ベッドに腰掛けて、カゲリの汗で顔に張り付いた前髪を払ってやる。

あの時……、俺が里を抜けるとき。
俺は本当はカゲリも連れていくつもりだった…、俺と同じ人傀儡にして。

体が弱くて、病にばかりかかっていたカゲリ。俺はそれを見ていられなかった。
どうしたらその苦しみから救ってやれるだろうか、医療忍者でもない俺が。

人傀儡にしてしまえば。
そうすればもう苦しまなくて済むのではないか。そう考えた俺はあの日…自らを傀儡にして、風影を殺して、カゲリの入院していた病院に足を運んだ。

俺は眠っているカゲリに刃を立てようとした。
……でも、俺には出来なかった。
人傀儡になった俺には感情も何もないはずなのに。なのに、カゲリに対する感情だけは拭っても拭いきれなかった。

(あの時俺がお前を…殺していたら、傀儡にしていたら、本当に苦しまずに済んだのか…?
俺の呪縛も受けずに…)

忙しく上下するその左胸に手をそっと這わせる。
カゲリは、俺からの呪縛を受けて、治る病も治らず、常に生命の危機にさらされている。
俺が、傀儡だから。

俺は傀儡だから、毒を体内に仕込んでも一切影響はない。
でも、カゲリは生身の人間。

(お前を一番苦しめているのは、結局俺なんだな…。
そんな俺が苦しんでいるお前を救いたいと思うなんて、馬鹿な話だ…)

自分で自分を嘲笑いながらも、ベッドに横たわるカゲリをもう一度見てから、その上に覆いかぶさる。

俺と同じ顔。でも、俺じゃない。
傀儡の俺よりも白い頬に触れる。
触れると、ひんやりとした感触が伝わる。このままじゃ死ぬんだ、こいつは。

そんな事は俺がさせない。
カゲリが本当に死にかけた、その時は。
…その時こそは、俺がカゲリを傀儡にする。

(…俺達は双子、離れない存在。依存するのが道理、か。)

頬に手を添えたまま、顔を近付けて、そっと唇を重ねた。
チャクラを分け与える方法は他にいくらでもあった。でも、あえてこの方法を選んだのは、胸に秘めた許されぬ想い故。

重ねた唇から、ゆっくりとチャクラが流れる。
チャクラが流れると、冷たかったカゲリの頬も暖かみを取り戻していく。

唇を離すと、カゲリの顔はすっかり穏やかなものになっていた。小さく寝息を立てて、眠っている。
昔はよく一緒に寝て、すぐ隣で見ていた、この寝顔。

(…昔から、俺はこいつのこの寝顔を見ると、何故だか安心した…)

今も安心感はあった。
でも、それ以上に俺の中にはもっと別の感情がある。自覚してはいけなかった感情かもしれない。

「…カゲリ、」

ベッドから降りて、横に立って返事がくるわけもないが、名を呼ぶ。
そして、ベッド脇に手をついて顔を近付けてもう一度口付けをした。



わかってる。
こんな想い抱いてはいけないことくらい。
いくら俺が求めても意味がないことも。



でも、俺は。














「愛してる、」




(叶わなくとも、)(お前だけを)







END。

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