※読む前の注意点。

・ section 0 0.幼少期編 の16 〜 17 話の間。
・小十郎を巻き込んでのかくれんぼの後の話し。
・小十郎の呼び名。愛称へと至った経緯。












世に聞く “ かくれんぼ ” って脱走して石田先生に捕まる並みに恐怖を覚える遊びだったんだね…………。
もっと、こう。キャキャ。ウフフな楽しい遊びだと想ってたけど………、ナニコレ想像と全然違って怖いよっ!思ってたんと違うっ!?

産まれて初めて体験した、かくれんぼが思っていたよりも遥かに恐怖を喚び内心で感想を零しつつも、鬼役の小十郎さんにいの一番に見つかりガタブルっと震えて正座しながら私はそう、思わずにはいられなかった。































鬼役の小十郎さんによって梵君まで見つかり、次は私が鬼役でかくれんぼが再開される筈が……。
私の顔色が思わしくなかった事でまたもや梵君と小十郎さんの間だけで交わされる休憩話しに、べつに体調が悪いわけじゃ……っといつもなら絶対に口を挟むはずが、誤解を解く事もせず素直に二人に従ったのは。
私の顔色が悪いのは、小十郎さんが本物の鬼並みに恐怖感を植え付けたからです。なんて口が裂けても言える勇気が私にはなかったからだった。
かくして、私が休んでいた部屋に戻るとそのまま有無も言わさず梵君と小十郎さんに褥へと押し込まれそうになったのにはさすがに、全力で抵抗すれば褥に戻る事だけは免れた。

私の隣に梵君が座り、向かい合わせになるように小十郎さんが座りお茶を淹れる。

「ほらよ」

「あ、ありがとう」

小十郎さん自ら淹れてくれたお茶を受け取り一口飲み、喉を潤す。
ふわりっと口内に広がる茶葉とは異なる香ばしさを感じて首を傾げる。

何だろう?
でも、私、何度か口にした事があるような………?

「ごぼう茶だよ。それ」

何のお茶か考えていた私に気付いたように梵君からお茶の正体を明かされ「え!」っと手の中の湯飲みに視線を落とした。

言われてみれば確かに微かに牛蒡の味と香ばしさは感じるが、飲んだ事も今まで聞いた事のないお茶だっただけに衝撃は凄まじかった。

「これ牛蒡なの!あの野菜の?土になる?」

「あぁ。………口に合わなかったか?」

手で牛蒡をジャスチャーするように、わたわたっと忙しない私にどこか引き気味に頷いた後、気遣うように問われた。

どうやらこの牛蒡茶は好みが別れるらしい。
現に隣に座る梵君の湯飲みの中のお茶は、茶褐色ではなく普通の緑色で。
察するに梵君は牛蒡茶は苦手のようだ。

「遠慮はするな。苦手なら梵天丸様と同じ茶に淹れ直してやる」

少しクセはあるものの、飲めないことはない。
寧ろ私は………。

「牛蒡茶、好きになりそう」

「本当に?無理してない?」

微笑み無理をする訳でもなく、一口二口っと喉に通す私にちょっと驚くような心配するように小声で聞いてくれる梵君に私は笑顔で応えた。

「ちょっと意外だけど、うん!美味しい!」

湯飲みに入っていた牛蒡茶を飲み干し、お代わりをお願いする私に梵君からは、凄い!っと尊敬のような眼差しを受け、小十郎さんは小十郎さんで「そうか」っとどこか嬉しそうに微笑みながら空になった湯飲みに新しいお茶を注いでくれた。 

お茶を飲みながらの賑やかな談笑。
梵君と私とは違い小十郎さんは相槌をうつ方が多かったけど、その表情は微かに口元を和らげて微笑んでいた。

ありふれた、ゆったりと流れる時間。

ただ、それだけなのになんだかとても穏やかに感じて。

好きだと想った。

この雰囲気も、二人の笑う表情も。

梵君と二人で談笑するのと同じぐらい小十郎さんを入れての会話はいつも以上に弾み賑やかでとても楽しくて…………。
だから余計に、梵君並みに、とは言わないけど小十郎さんとも少しは親しくなりたいって思ったんだ。

「どうかしたの?………もしかして!どこか痛む?」

「!?」

「へ?」

急に黙った私の身を案じ、下から私の表情を伺う梵君の瞳は酷く心配の色を宿しており。
先ほどの馬上での失神の件もあり梵君の言葉に過剰に反応にしてか俊敏に立ち上がる小十郎さんに私は目を丸くした後に。謝罪しながから違うのだと誤解を解いた。

「なんて言うか、考え事してて…………。
その……小十郎さんにも愛称みたいなの、決めてもいい…………?」

梵君みたいに。

牛蒡茶が半分残る湯飲みを持つ指を微かに遊ばせながら躊躇するように続けて問えば、今度は小十郎さんが目を丸めてしまう。

「そ、あ、っ!ダメならいいの!なんていうか小十郎さんにもっと親しみを持ちたいなって………勝手に、私が思っただけで……」

湯飲みを畳の上に置き、両手をブンブンっと左右に揺らせながら急くように言うが後半はもう殆ど蚊の鳴く程度の声量だった。

「小十郎………」

「梵天丸様、承知しておりますれば」

あははは、っと空笑いを零す私に居たたまれなくなったのか、私の隣から小十郎さんの隣に移動すると、くいくいっと袂を引く梵君の想いを見透かしたように頷くと、視線が私へと向く。

「愛称だろうが、テメェの好きに呼べばいい」

「!?あ、ありがとう!小十郎さぁぁん!」

「(御礼を言わなきゃなんねぇのは、むしろ俺の方だ。馬上の件っといい今回といい)ぐっ!?お、おいッ!?」

まさか承諾してくれるとは思ってもみなかったからか、嬉しさの余り御礼を言いながら抱き付けば、私の予想外の行動に一応。小十郎さんが抱き留めてくれたものの狼狽え出せば。
何故かプーッと頬を膨らませて、明らかに不機嫌そうな表情の梵君が私の背後から腰にキツく抱き付いてきたりと。そんな梵君に何かを察したのか真っ青になる小十郎さんやらで暫くはちょっと大変だった。

やっと梵君の機嫌が直ったと安堵していたら、何故か小十郎さんに「容易に男に抱きつくんじゃねぇ!?」っとその場で正座させられ叱られてしまった。何かと私に助け舟を出してくれる筈の梵君は、この時ばかりは何故か小十郎さん側で一緒になって怒っていて。
それにはさすがに全力で謝り倒しなんとか二人からお許しを貰う事が出来た。

結局。
梵君と一緒になって考えた小十郎さんの愛称は、幾つか上がった中から小十郎さん自身が選ぶ形となり、俄かに頭を抱えながら(若干疲れきってなんか折れてたぽいけど………)一番無難な私提案の “ こじゅ君 ” へと決まったのだった。




















ここまで読んで頂きありがとうございました!



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