椿と月
 2020.05.26 Tue 04:29



9/19うーんねむいけどひさびさに編集しようかな ずっと初期から山葡萄を入れたくてワラ。

眠けがなくなったらそのうちいまもう寝ます(笑)わら10:10

椿と月2011〜2012 (2018ちょい編集5/2)

そうあれは弁天山もだいぶ色づく頃のことだ

オラは狩りを生業としている

しかしオラの女房が病で起きることもできなくなった

オラは日を追うごとに弱って行く女房を見て口には出さないが己自身を恨んでいた

そうだオラ悟空

竜神さまオラの話を聞いてくれ

だっておれは獣を射ち殺しているからな

生業とはいえ残酷なことだし
殺さなくてもいい物を撃ち殺したこともある
神仏と交わした約束とは別に自分だけのルールを作ってはいたが
そうも行かない場合もある
猟師自身がたとえ獣に殺されてもそれはソレと考えているが今回の女房の病気はどれにもあたらないような気がする

ルールといふのは山で暮らすひとつの寄りどころとした神仏に対しての畏れかもしれないし
それよりも身をもって山神と対話した感覚を自分なりにルールにしたと言った方が正しいのかもしれない
またすべては対峙するお互いの間には見えない掟みたいなものがあると感じていた

そうは言ってみたもののいざ自分の女房が病になると
今の猟師には何もかもが厚みのないものに見えてしまう

猟師は女房が病になってからはよりいっそう野仏などを見かけると手を合わるやうになった
その行為は女房の病とは別にあり自身が自分の生き方に問いかけていた行為だったのかもしれない

心が身体の動きに出るからだらうか猟に出ても空に向かってため息をつく日が多くなりめっきり獲物も捕れなくなった
それは女房が食事をほとんど口にはしなくなった事実が猟師の心をよりいつさう暗くしていたからだらう
猟師は町で滋養をつけるにはウナギがよいのではないかということを聞き
急いで仕掛けを持って山を駈け降りていった

うなぎか
なぜ気づかなんだ…

猟師は仕掛けを川に放り込んだ
仕掛けがゆっくり沈んで行く

水中を縫うように沈んでいく仕掛けを猟師は己の人生に重ね合わせていた

仕掛けが消えた水面に映る空の青さは深く沈んだような己の心と水の碧さが入り混じったようなそれはなんだか恐ろしいやうな不思議な感覚だった

ウナギの棲む川の上流に
弁天山を背に瓢箪を2つ並べた沼があり
そこから天狗川に水が押し出されてくる
以前は女房も草の茂みに身を潜め楽しそうにウナギが掛かるのを待っていたこともある

猟師は小鳥の鳴き声で目を覚ました

どれくらい寝ていたであらうか
仕掛けを引き上げ覗いて見ると
太いウナギと小魚が数匹かかっていた

これで女房のヤツに食わしてやれる

猟師の喜びはひとしおだった
元気な女房の姿を想像し魚籠の中に手を入れウナギをむんずと掴むと大人の男が握っても
少し余るくらいの大きなウナギだった

握る度にウナギはヌメヌメして活きが良く動き回る

そして何事もなかったように捕った小魚を草むらに放り投げた

猟師は子ギツネに気づいていた

驚いてこっちをみる狐に

だいぶ腹がへっていそうだの、ほれ、こいつでも食って元気になれ

いいか、もっと大きくなるんだぞ

子ギツネは眉も動かさずじっと見ていた

子ギツネがはじめて見る人間という生き物が子ギツネの小さな瞳の中に真っ赤に刻みこまれていた

少し入りくんだ帰り道に猟師の目に飛び込んで来たのは木々からこぼれ落ちそうなほどの山ぶどうの実であった。山ぶどうは猟師の女房の好物でもあるしジュースにしてもそのまま食ってもきっと元気になるだらう、ましてや病であれば尚更だ

まあどちらを食うてもよい肝心なのは女房が元気になることなのだ

猟師は己の指先が色づくほどに女房の命が燃え上がるように感じ色づきはじめた山々に倒れこんだ

そして山々の神様よどうにかならないだらうか

この燃え上がる山々のやうにあやつの命にはならないだらうかと呟き

天と地がひっくり返るやうに起き上がると籠一杯の山ぶどうと鰻を両手に抱え猟師は急ぎ家路へと向かった

猟師が山をかけ降りるスピードに動物たちまで目を丸くした

いま帰ったぞー

家からの返事はなかったが

猟師はさっそく魚籠の中に手を突っ込み

あまりに太すぎるがこれくらいの方が生命力があっていい、そして早く元気になってもらわんと家の中か静かすぎてかなわぬと独り言をいった

しかし猟師の女房が死んだ

寿命といってしまえばそれまでだが

なんだか居なくなってしまった部屋の広さを見るたびに女房がいた辺りを見てしまう

そのとき、

物音がした

またあの大鹿が現れこちらを見ていた

あの新緑の滝のように押し寄せてくる青葉の中に大鹿は太く締まった美しい脚でこちらを見ていた

しかし猟師はあの時、目の前に悠然と立つ大鹿を撃つことができなかった

若かったからかもしれないが

どうしても撃つことが出来なかった

葬儀も終わり数ヵ月が過ぎた頃以前と同じように猟師が山に出かけた。そして火縄銃を背に息をひそめ獲物をまった

しかし獲物が一向にあらわれず今日も家路について横になると

家の戸を叩く者がいた

(こんな人里離れた一軒家にいったいだれだらう)

猟師が戸を開けると

そこには色白の娘が立っており一晩でいいから泊めて欲しいといった

娘を家に入れる時に見えた空はピカピカとしており星が東の方からゆっくりと西に向かって流れて行くのが見えた

どうしたことじゃろう娘は一向に家を出ていかうとはしない

そんな生活が何年かつづいたある日

村で数人の子供が次次に居なくなる事件が起きた

祟りだという者

神隠しだという者

狐に化かされたのだという者までいた

そして近々山狩りをして獣という獣を捕らえるという話だった

城からも数人の男たちが出ており

酒樽まで用意されまるで祭りのような騒ぎで獣を捕らえるという

猟師は家に帰ると村人が山狩りをするまえに子供たちを探さねばと思い家の中で火縄銃の手入れをしていると外で子供たちの笑い声がした

まさか、こんな夜更けに

念のため囲炉裏から種火を取り火縄に弾を込めた

そして猟師は息をのみ耳をピンと立て外の動く気配を静かに感じていた

飛びはねる音や弁天山の話などがはっきりと耳に聞こえる

夢か

その時猟師のまえにあの大鹿が現れた

ひさしぶりだの

あの日なぜワシを殺さなかった

ワシはだいぶ年老いてきた

お前の動きをいつもみていた

どうせ撃たれるのならお主がいいと思い待っていたのだ

なぜ撃たなかった

どうしてだ

あの日ワシはお主を待っておったのだぞ

なぜだ、答よ、

どうしてあの日お前はワシを撃たなかったのだ

ハアッ、

ハアハアハア

やはり夢か

引戸も微かに揺れ

裏山の積もった雪が落ちる音がしっかりと耳の奥まで聞こえた

猟師は気を取り直し戸の隙間から今一度外をのぞいてみた

ぬっ、

「化け物か」

猟師は引き金を引いた

自分でも知らぬまに猟師は火縄銃の引金を引いていたのだ

とっさに思ったのは子供たちに当たってはいないかということだった

雪の中に転がるように出てみると

家の前倒れていたのは

美しく若いキツネだった

どうしてキツネが

以前あなたに大きくなれと言われたキツネでございます。あなた様の女房が死んだと聞き少しでもお手伝いが出きればと思いこちらにやってまいりました

仲間のキツネに会いにいこうと山の奥に入っていった所で子供たちが親を困らせようと隠れていたのでここまで連れてきた次第でございます

なんと

やはり獣の血でございますね

普段引き金を引かぬあなた様が引き金を引いた

わたしとあなた様の間には相容れぬものがあったのでございます

そしてキツネは胸から真っ赤な椿の花のような血を流しぐったりとして目を閉じた

これ、目を覚ませ…

痛かったろ、おれをゆるしてくれろ…

そういうと猟師はキツネの娘を力強く抱きしめもう一度一緒に暮らそうといいました

「ほら目を覚ませ、またひとりになってしもうたではないか」

お外ではそんな猟師の声をかき消すかのように

雪がたいそう強くなっております


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