梁にくくりつけられた両腕は痺れ、とうに感覚はなくなっていた。口には轡をはめられて声を上げることすら叶わない。着物は上衣だけ纏った状態で、下肢の違和感にゆるりと腰を動かした。

「淫乱なものだ」
「…………っ」

冷たく響く声色は若干の愉悦を含んでいるものの、彼を知る人物からすれば相当に機嫌が悪いことだと分かる。分かるけれど、目隠しをされた状態では彼がどんな表情で己れを見ているのか分からず、それでも刺すような視線を感じて息が詰まった。

「ほう…見られているのが分かるのか。その上、」
「ん、んっ、ぅ!」

自身に埋め込まれた細い棒をぐるりと回され、土方の身体は跳ね上がる。後孔には男性器を模した張子も同様に差し入れされ、激しい快楽に脚をばたつかせた。

「このような玩具で悦ぶなど…仕置きが足りぬらしいな」

違う、と首を振る。どうにかして誤解を解きたくとも、土方の身は風間の思うがままである内は弁明する余地すら与えられない。
とある旗本で会合があった帰り道に連れ去られてから、いったいどれほどの時間が経ったのだろう。出会い茶屋に連れ込まれて拘束され、散々風間に躾けられた身体は些細なことでも反応する。高ぶった熱は放出する先を求めて全身を駆け巡り、風間から発せられる言葉一つ一つに耐えなければならなかった。
だが理由が分からない。ここまで風間を怒らせる出来事など、土方には見当もつかなかった。

「さて」

土方の肌の上に指先を滑らせる。胸の突起を掠めたところで、新たな快感に土方は身を捩らせるが、風間は決して中心を触らずその周囲だけを撫で続けた。

「あの旗本で何があったのか…何故護衛もつけず、貴様一人だけ会合に向かったのか、教えてくれるのだろう?」
「ぁ…は、あぁ……っ、や、!」

空いた片手で轡を外してやれば、土方は息も絶え絶えに喘ぎ声を漏らす。その声に風間は眉を潜めると平手で土方の頬を打った。

「誰が喘げと言った。あの旗本で何があったのか、俺が知らないとでも思ったか」

その内容に、土方の肩が揺れる。それと同時に風間の怒る原因をおぼろげながら理解するも、すべてを話すわけにはいかなかった。
黙り込む土方に風間は痺れを切らし、唐突に張子を打ち付ける。

「やめっ、あ…あぁああぁ!!」
「何故だ…何故言わぬ!」
「ひっ…んぁ、あ、やだ、風間ぁ!」

首を振り拒絶する姿が、風間自身を否定されたような気がして、風間は聞こえない振りをした。打ち付ける速度を上げ、埋め込んでいた棒に手をかける。

「このまま、達してしまえ」
「あ、や……あぁぁあぁ!!」

張子を最奥まで押し込むと同時に、埋め込んだ棒を力任せに引き抜いた。限界まで張り詰めていた自身は白濁を撒き散らし、土方はぐったりと脱力する。
放心している土方を見た風間は苦々しい思いをしながら些か乱暴に腕の拘束を解いた。せめて身支度だけでも手伝ってやろうと目隠しを外し、風間は絶句する。


――誇り高い、誰よりも強くあろうとしていた人間は、静かに涙を湛えていた。


その瞳が風間を捕らえると、土方は口を開く。

「新選組は会津藩預かりだ…その会津は、長岡藩と同盟を結んでる…」
「…………もう、分かった」
「ただの同盟なら構いやしねぇ…だが、貸しを作ってた長岡藩は、隊士の何人かに目を付けた」

「……良い、話すな」
「うちの連中に手を出されるくらいなら…俺の身体ひとつで事足りるなら…」
「もう話すな!」

声を荒げ、風間は土方を抱き締めた。旗本で行われたことは、土方一人で向かった理由がやっと分かった。つまりは、そういうことである。
抱き締めた背中におずおずと遠慮がちに腕が回される。柄にもなく酷なことをしてしまったと反省していれば、自嘲ぎみに声が聞こえた。

「まぁ、いつかはこんなこともあるとは分かっちゃいたが…それよりお前はなんだってこんな真似をしたんだ?」

次は風間が押し黙る番だった。出逢う回数が極端に減り、土方が心変わりしてしまったと早とちりしての乱暴だったとは口が裂けても言えないが、今回ばかりは全面的に風間の分が悪かった。
だがそんな風間の心情も察していたのだろう。土方はうっすらと笑みを浮かべると風間の額に口付けた。

「つまり、嫉妬してくれたってことだろ」
「どの口が言うか」
「へぇ…俺はこんな目に遭わされたってぇのにな」

背に回していた腕を首に絡める。それが土方なりの甘え方だと知っている風間は、土方の身体を横抱きにすると改めて褥へと運んだ。

「では…我が妻はどうすれば機嫌を治してくれると?」
「今までにねぇってくらい甘やかして愛してくれ。それで許してやる」
「――仰せのままに」もともと高められていた熱は、すぐに反応を示す。互いの唇を離すことなく、風間は器用に土方自身を攻め立てていった。
角度を変えて舌を絡ませ深く口付ける。
どちらとも分からない唾液が口端から伝うことも厭わず、風間の手は休むことなく緩急をつけて上下に扱く。先端から溢れ出た蜜が風間の手を濡らし、ぐちゅぐちゅと水音が室内に響いた。

「ふ、んんっ…ん、くっ…」

苦しげな声にようやく唇を離す。息を吸い込んだ土方は熱に濡れた瞳を風間へ向けた。

「まったく…いつからそうやって可愛く強請るようになったのやら」
「いい、から…!早く、寄越しやがれ…っ!」

眼は口ほどに物を言う、とはよく言ったものだ。まさに視線だけで強請った土方だったが、風間に揶揄されて眉根を寄せる。
これ以上機嫌を損ねられても敵わんと、風間は濡れた指先を後孔に塗りつけた。だが先ほどまで張子が入っていたその箇所は、なんなく指を飲み込んでしまう。
これならば慣らさずとも大丈夫だと思った風間は自身を取り出して数回扱くと、土方の後孔に宛がった。腰を落として推し進めていくと、最初押し出そうとしていた内部は次第に引き込むように蠢いていく。

「あ、うぁ…!は……んっ…」
「分かるか、土方…!入った、ぞ…」

息を整えて小さく頷いた土方の様子を見やる。落ち着いた頃合を見計らい腰を前後に動かし始めると、途端に甘やかな声が口から溢れた。

「や、んぁぅ……!あ、ぁ、はっ…!」

土方自身が反り返り、溢れる蜜の量も増えていく。風間は的確に土方の感じる場所へ自身を打ちつけ、抜ける寸前まで腰を引いたかと思えば抉るように突いていった。
やがて互いに絶頂を迎える、と言う寸前。

「ちかげ…いっしょ、に……!」
「…………っ!!」
「――あぁああぁぁあっ!!」

土方は己れの腹部に白濁をぶちまけ、風間は土方の奥深くへと欲を注いだ。











何故俺の名を呼んだ?
呼ばれるのは嫌いか?
いや…お前は呼んだことがないだろう。
馬鹿かお前。
なんだと?
褥の中で妻が夫の名を呼ぶのは当たり前じゃねぇのか。
…………そうか。お?なんだお前、照れて…
五月蝿い。とっととその身体を休ませろ。








(柄にもなく嬉しいと思ってしまった、なんて)
(恥ずかしさを抑えて言い切った、なんて)
(――きっと、相手は気付いてないはず)




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