遠い人里の方から年明けを告げる鐘の音が響いて来る。
土方は風間の猪口に酒を注ぎながら鐘の音を聞いた。
「年が明けたな、千景」
「ああ、そうだな」
猪口に注がれた酒を仰ぎ、風間は土方の腰に手を回して抱き寄せた。
土方もされるがまま身を預け、徳利を盆の上に置いた。
ただ静かな空間に鐘の音だけが響き渡る。
風間は空になった猪口を置き、抱き寄せた土方の身体を腕の中に閉じ込めて微笑んだ。
「歳三よ、今年も変わらず俺の隣で笑っていろ。離れる事は許さん」
彼らしい傲慢な言い方。それでも嬉しく感じるのは彼に心底惚れているからだ。
土方は風間の背に腕を回して抱きつくと、広く温かな胸へ顔を埋めた。大好きな彼の温もりと香りに包まれる。
「それなら、お前も俺の隣に居てくれよ。離れたら承知しねぇからな」
「無論だ。貴様以上に愛しい者は居ない」
「ったく……恥ずかしい奴」
「そんな俺が好きなのだろう?」
「……馬鹿野郎」
風間はクスリと笑った。土方が照れているのだと分かるからだ。
現に土方は頬を赤く染めながら顔を隠すようにしている。酒のせいだけでは無い赤らみが可愛い。
胸元に埋められている彼の顔が見たくて、間に手を滑らせて顎を持ち上げる。
朝露に濡れた菫の花を思わせる瞳。
吸い込まれるように顔を寄せると、土方も自然と瞼を伏せる。そうして伏せられた瞼に唇を落とし、頬から唇に移動させていく。柔らかな赤い唇。
最初は優しく何度も啄み、己を誘い込むようにうっすらと開かれると、舌で口内を愛撫した。
くちゅりと音を立てながら深い口付けを交わす。
「ふっ……んぅ……」
飲み込め無い唾液が口端から滴り落ちる。
土方は頬を上気させ、縋りつくように風間の首へ腕を回した。
口付けを交わしながら土方の着物に手をかけ、肩から肌蹴させていく。
露になった雪のように白い肌が視界に入ると、名残惜しさを耐えながら口付けを終えてその肌に吸い付いた。
白い肌はすぐに赤い花を咲かせる。そこを舌で舐め、土方の身体を横抱きにして立ち上がると、布団が敷かれている奥の間に向かった。
「姫始めだな、歳三」
「ばっ……!?何言ってやがんだ!」
「そう照れずとも良い。存分に愛してやるぞ」
そう言って微笑まれてしまえば何も言えなくなる。
褥の上に寝かされ、覆い被さってくる風間に土方は笑った。
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律動に合わせて土方の腰が揺れる。快楽に汗ばむ肌から匂い立つような色香を放つ。
最初は処女の乙女のように恥じらいを見せる土方だが、一度快楽の波に流されてしまえば何とも淫らで艶やかな姿を見せる。
「ぁは、あ……っ!」
土方の片足を持ち上げ、より強く結合を深め奥を穿つ。
土方は喉を仰け反らせ欲を放った。それと同時に内部を強く締め付け、風間はそれに眉を寄せて土方の中に欲を迸らせた。
流れ込んで来る熱い欲に土方は身体を震わせ、荒い呼吸を繰り返す。
「……歳三、やはり貴様は美しい」
「……っあ、ぁあ……!?」
風間は頬を流れる汗を拭い、まだ足りぬと土方の内に留まったままの自身をゆるりと動かした。
欲を放つ敏感になっている土方の身体はすぐに反応するが、強すぎる刺激に土方は嫌だと力無く首を振る。
「まだだ……まだ貴様を味わいたい」
「はぁ……ぁ、……ま、待て……!」
風間は聞く耳を持たず、土方の胸元に顔を寄せて赤く勃ち上がっている突起に歯を立てた。
ビクリと身体を揺らしながらも、土方はどうにか風間を引き離そうと肩を押す。
「やめろって……、こらっ!」
「……往生際が悪いぞ?」
「人の話は最後まで聞けよ!……お前が満足するまで抱かれてやるけど、その前に言いたい事があるんだ」
「なんだ?」
先を促す風間の言葉に土方は笑み、彼の耳元に唇を寄せた。
「あけましておめでとう。今年もよろしくな、千景」
風間は瞳を見開く。確かに「年は明けたな」と話はしたが新年の挨拶は交わしていなかった。
何とも律義な土方に優しい笑みが零れる。
「ああ、あけましておめでとう。俺の方こそよろしく頼むぞ、歳三」
土方はそれを笑みで応え、互いに唇を重ね合わせた。
今年も来年も……ずっとずっと、一緒に生きて行こう。
笑って、泣いて、怒って……。楽しい事も悲しい事も、何もかも全て共有して――――。
――どうか、良い年になりますように。
終