街を彩るイルミネーション。恋人たちが楽しそうに笑い合う声。
賑やかに過ぎていく光景に目もくれず、土方は白い息を吐きながら家路を急いだ。
今日は聖なる日。――クリスマス。家で待っているであろう恋人を想うと胸が騒ぐ。早く会いたい、早く声が聞きたい、早く彼の温もりに包まれたい。
そうして着いた自宅マンション前。土方は鞄の中を今一度確認してから、ドアに鍵を差し込み開けた。
玄関には男物の靴が一足。彼が来ている。土方は逸る心を抑えて靴を脱ぐと、まっすぐ歩いてリビングに向かった。

「ああ、お帰りなさい。歳三さん」

途端に聞こえる明るい声。土方の大好きな声。
キッチンから顔を覗かせた愛しい恋人の姿に、土方の表情が綻ぶ。
彼の名前は沖田総司。土方とは七つ年下で、恋人同士である。
今日という日を沖田も楽しみにしていたようで、料理もケーキも自分が作ると言ってきかなかった。
彼がそこまで言うならばと土方は全てを任せる事にしたのだが、まだ作っている最中だったらしい。
可愛い猫が二匹プリントされているエプロンを着た姿は心底可愛らしく、土方は小さく笑った。

「もう少しで完成するから、歳三さんは先にお風呂でも入って来て下さい」
「ああ、分かった」

土方は先に寝室に入って上着を脱ぎ、ベッドの上に鞄を置いた。
その拍子に頭を見せた細長い箱を、土方は慌てて手に取りそれを優しく撫でた。
柔らかい布団の上だから大丈夫だと、緑色の包装紙に包まれた箱を再び鞄の中に戻して寝室を後にした。










*************

土方が風呂から上がると、テーブルには美味しそうな料理が並んでいて既に沖田が座って待っていた。
沖田に促されるままイスに座るとグラスを差し出される。片方の手には赤ワイン。
土方がグラスを手に取ると、すさかずワインを注がれる。次いで自らのグラスにワインを注ごうとする沖田から瓶を奪った土方は、いいからと笑って彼のグラスにもワインを注ぐ。
そうして互いにグラスを持って近付け合い、そっと傾ける。

『乾杯――!』

グラス同士を鳴らし、コクりと一口飲む。
ワインは甘かった。きっと酒に弱い土方の事を考えたのだろう。
こうした小さな気遣いが、土方は嬉しかった。

「ねぇねぇ、歳三さん。このシチュー、僕が作ったんですよ」

ニコニコと子どものような笑顔を向けられ、土方もつい釣られて笑顔になってしまう。
美味しそうな香りを立てるシチューを見れば、それは確かに沖田が作った物だと分かった。
じゃがいもや人参等の具材は形崩れしており、スプーンで掬い落とすと水のように流れていく。
実際に食べてみてもそれは変わらず水っぽかったが、味は良かったし沖田が作った物だと思うだけで美味しかった。

「うん、美味いよ」
「本当?ああ、良かったぁ。料理ってしないから不安だったんですよね」

本当に心底安心している様子の沖田が、やはり可愛くて愛しかった。
その想いをどうにか伝えたくて、軽く身を乗り出して彼の頭に手を伸ばし撫でた。

「ありがとうな、総司」
「僕は、もう子どもじゃないですよ?」
「んな事は分かってるよ。それでも、こうしたかったんだ」
「あーあ……本当、歳三さんには敵わないや」

拗ねたように上唇を尖らせる姿は年下らしく可愛いもので、土方は眉尻を下げて笑みを深めた。
年下であろうが無かろうが、可愛いものは可愛い。それは沖田が土方に感じる物と同じだ。
それは沖田も分かっているのだろう、拗ねた表情から照れを含んだ笑みに変わる。
それから二人で料理を楽しみ、今は沖田が作ったケーキを切り分け食していた。
市販のスポンジにクリームを塗って飾り付けただけだと沖田は謙遜していたが、出されたケーキは綺麗に仕上がっていて作り手の一生懸命さが伝わってきた。
クリームも甘くて美味しいし、作り手の想いが何よりも嬉しい。

「歳三さん、歳三さん。あ〜ん」

不意に呼ばれた名前に顔を向けると、そこには大きく口を開けて待っている沖田の姿。
それが何を意図してか瞬時に悟った土方は、頬を染める。

「もう、早く食べさせて下さいよ。ほら、あ〜ん」

そう急かされると、土方はフォークで一口分切り分けて、おずおずと沖田の口元まで伸ばした。
それを嬉しそうにパクりと食べた沖田は、頬を綻ばせて喜んだ。それを見た土方の心も温かくなり、幸せな気持ちになった。
そう思っていると、今度は己の口元にケーキが刺さったフォークを寄せられる。何だ?と沖田を見るとニコニコと楽しそうな笑み。
己にもあ〜んと口を開けろと言っているのだ。それは流石に恥ずかしかったが、今日という日くらいはとことん甘えてみるのも悪くないと、土方は頬を更に染めながら口を開いてケーキを食べた。
もぐもぐと口を動かしながら沖田を見ると、心底満足そうに笑みが深められる。

「歳三さん、可愛い。……ケーキじゃなくて、歳三さんを食べたくなっちゃったな」
「……なっ!?」
「あはは、頬にクリームがついてますよ」

そう言って沖田は立ち上がり土方の前まで歩み寄ると、頬についているクリームを舌で舐め取った。
ただそれだけの行為でも、土方はビクリと身体を揺らしてしまう。
――期待していないと言ったら嘘になる。

「ねぇ、歳三さん。……歳三さんも僕が欲しいよね」

耳元で囁かれる甘い誘いに、土方はコクりと小さく頷く。
そうして沖田に手を引かれるまま寝室に向かい、互いに求めるまま身体を重ね合わせたのだった。









**************

事後の余韻を楽しむように啄むようなキスを繰り返し、沖田は悪戯するように土方の淡く色付いた肌を指で撫でた。
撫でられた箇所が甘く疼いて、また彼の熱が欲しくなる。こんなに己は欲深かっただろうか。……いや、きっと彼にだけだ。彼と付き合い始めてから、己は欲深くなった。
だが、そんな己も悪くない。こんなにも優しくて愛しい温もりが手に入ったのだから。
微睡みながらそんな事を思っていた時、ふと土方は大事な事を思い出し沖田から離れてベッド脇に手を伸ばした。
そこには身体を重ねる前に退けた鞄があった。

「どうしたの?歳三さん」
「ちょっとな。……このまま渡しそびれる所だったぜ」

土方が鞄の中から取り出したのは、緑色の包装紙に包まれた細長い箱。

「お前へのプレゼント……、前に欲しいって言ってたろ?」

そうして差し出されたプレゼントを受け取った沖田は、手を震わせながら包装紙を剥がしていく。
まさか、まさか……。沖田の鼓動が早くなる。
プレゼントの中身を確認するや、沖田は嬉しさのあまり土方の身体を強く抱き締めた。

「ありがとう、歳三さん。僕……僕、凄く嬉しいよ」
「そら見ろ。やっぱり欲しかったんじゃねぇか」

沖田の頭を柔らかく撫でながら、土方はクスリと笑った。
――それは二週間前にデートをした日。二人は時計店に寄った。
そこで沖田は一つの腕時計をジッと見つめていた。きっと一目惚れしたのだろう。
土方が「欲しいのか?」と何気無く問うと、沖田は慌てた様子で「違う、いらない」と否定したのだった。
その時はそれで終わったが、土方はずっと気にしていた。あんなに熱く見つめていたのだ。欲しくないわけがない。
本当はあの日にでも買ってやりたいと思ったのだが、クリスマスプレゼントという名目の方が相手も受け取りやすいと土方は考えたのだ。

「まさかこんなプレゼントを貰えるなんて思ってませんでしたよ。……僕からのプレゼント、渡しづらいなぁ」

そう苦笑しながら上体を起こした沖田は、シャツを羽織って寝室からリビングに向かいすぐに戻って来た。手には可愛いサンタやトナカイが描かれている小さな紙袋が二つ。
ベッドに座り、赤いシールが貼ってある方の紙袋を土方に差し出した。
紙袋が小さいのだから、中身は小物類だろうか。土方も上体を起こして紙袋を受け取ると、それを開けて中身を手の平に落とした。
出てきたのは菫色のリボンをつけたウサギのストラップ。

「それ……僕のとお揃いなんですよ、ほら」

沖田が見せたストラップは確かに土方と同じウサギだったが、リボンの色だけ違っていた。彼の瞳と同じ翡翠色。

「なんだか安っぽいプレゼントで……ごめんなさい」
「何で謝るんだ?俺はどんなに高いプレゼントより嬉しかったのに。――ありがとう、大事にするよ」

本当に嬉しかった。自分の為に選んで買ってくれたプレゼントだから。
こんなに嬉しくて幸せな気持ちになれたプレゼントは初めてだった。

「歳三さん、大好き。――誰よりも愛してる」
「ああ、俺もお前が好きだ。何があっても、お前だけを……総司だけを愛してるよ」

互いに身体を抱き締め合い、伝えきれぬ愛しい想いが伝わるように唇を重ねた。










――何度生まれ変わっても、必ず貴方を好きになる。










『Happy Merry X'mas』









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