波乱のツキプロ文化祭その1※学際での実体験段、割とシリアス
2018.11.09 Fri 09:10
※私が去年実際に学際であった出来事を書いた実体験なので、キャラ崩壊や捏造設定があるかと思います。そういうのがOKな方だけお読みください。さらっとオリジナルキャラも出しています※
「はあ…やっと終わったな」
寮の自室で自分で淹れた紅茶を飲みながら、思わずそんな独り言が出た。
11月の最初の土日に割と大きい仕事があった。
準備期間は1ヶ月と少しというそこまで長い時間では無かった。まあ、正しく言えば仕事をもらってから半年ほどの時間は過ぎているのだが…。
でも、ちゃんとした準備時間は1カ月ほどだったと思う。
その中でも本番までの最後の1週間は本当にいろんなことがあった。
俺は一息つきながら、改めて今までのことを思い返していた。
☆☆☆
「と、いうわけでだ。お前らにはお焼きを売ってもらうぞ。老人ホームのおじいちゃんとおばあちゃんが来てくれるからな、一緒にやるんだ」
今年の4月。グラビ、プロセラが全員集められて、マネージャーの黒月さんから話があった。
11月の始めの土日二日間に『ツキプロ文化祭』という、ツキプロタレントとファンの交流と称して行われるイベントがある。
事務所の所属タレントの中から選ばれた人たちが模擬店をしたり、出し物をしたりするその名の通り学校でやるような文化祭だ。
抽選で選ばれたファンが足を運び、好きな場所を回れるという、この事務所では毎年開催される大型イベントの一つである。
それで、今回俺たちプロセラとグラビのメンバーが始めて販売の担当に選ばれたようだ。
内容は先ほど黒月さんが言ったようにおやき販売で、老人ホームのおじいちゃん、おばあちゃんたちと一緒に作業しながら交流を深めようということらしい。
「もう毎年来てくれてるらしいからな。プロだぞ。だから心配はしなくていい。後、去年はデザおうのやつらがやってるから、わからないことがあれば聞いたら教えてくれるだろう」
デザおうとは、「デザート王国」の略で、同じくツキプロに所属している俺たちの先輩アイドルだ。
リーダーのババ ロアンさん、それからパンナ コッタさん、クレーム ブリュレさん、シュー クリームさんの4人組女性アイドルグループである。
俺はまだあまり競演したことはないんだけどね。
「おお〜楽しみだねー!」
と、隣に座る恋が言えば、
「おやき美味しそう…」
と、おやきの創造をしたのだろう、恋の隣に坐る駆がうっとりと言った。
「頑張ろうね、いっくん」
恋とは逆隣に坐る涙もわくわくした様子で話しかけてきた。
「うん、楽しみだね。たくさん売ろうね!!」
俺もライブとは違う大きなイベントにわくわくしていた。
「ああ、そうだ。5月ぐらいから週1ぐらいで打ち合わせとかがあるからな。誰かが出席するようにな。大事な会議だからな!よし、お前ら二日間で600個目指すぞ!」
それぞれが近くの人とがやがやと話し始めたところで、そう黒月さんが付け足して、今回の文化祭担当が始さんと海さんに決まり説明は終わった。
もちろんやるのは全員だが、中心になってくれるのがこの二人というわけだ。
年商の4人で仕事をすることはあっても、12人で仕事をする機会なんてめったにない。しかも文化祭だ。高校生に戻ったような気分になる。
それに俺たちだけじゃなくて、施設の人たちも一緒なのだ。
成功させたいと気合が入った。
☆☆☆
それから、ちょこちょこと仕事の合間を縫ってできる人で材料の打ち合わせをしたり、実際に一緒に作る老人ホームに行って顔合わせと試食界をした。
調理担当になった涙、恋、駆、新さん、春さんと、おやきを焼く担当になった陽と夜さんは特に練習していた。販売担当のおれもアン子を詰めて形を作る作業をやらせてもらった。
施設の方が親切に教えてくれて楽しかった。
ちなみに販売担当は他に葵さん、海さん、隼さんも一緒だ。
あっ、始さんも調理担当だがこの日はけがをしているということで作業はしていなかった。
☆☆☆
あっという間に時間は経って、試食界から2カ月ほどした10月末であり本番の1週間前、俺は担当の月ということもあり、他の仕事で忙しくしていた。
もちろん文化祭の話も合間にはしていたが、なかなかそこまで気を回せる余裕がなかった。
それでも順調に進んでいるとは思っていた。
ところが、そうじゃなかったんだ。俺が表面的にしか見ていなかっただけだったんだ。
それは突然だった。
いや、突然でも何でもなかったのかもしれないが、その時の俺にとっては衝撃的でショックが大きかった。
その日は10月の最後の日曜日で、俺は地元に帰って来ていた。
たまたま関西の方でロケがあり、大学もいい具合に休みだったから数日実家にいる予定だったのだ。
この日はオフだったので、友達と計画してハロウィンパーティをした。
そんなことがあった次の日の朝。
グラビ・プロセラのグループLineを見て、俺は頭が真っ白になった。
《突然こんなこと言って悪いな。でもこれからのために言わせてくれ。ツキプロ文化祭のことだが、はっきり言ってお前たちからやる気が感じられない。この仕事は俺たちだけでやっているものではないだろ。先輩たちも協力してくださっているし、施設の方たちも来るんだ。俺たちはそんな人たちをリードしていかなければいけない。今のお前たちにはその自覚が足りないと思う。仕事とか予定があるのはみんな同じだろ?俺一人で頑張っているとは思わないよ。だけど、もう少し自分の行動を見詰め直してほしい。はっきり言うがこのままじゃやばいと思う》
今回仕切ってくれている始さんからのものだった。
俺は言葉も出て来なかった。正直全くその通りだったからだ。言い返すことが何もない。経験のある先輩たちも協力してくださっていた。それなの何も考えていなかった。
まずは謝ろうと思って返信をした。
文字だけでどれだけ伝わるかわからないが、向うに戻れるのは明後日だ。
とりあえずまずは謝りたいと思った。
《始さん、正直に伝えてくださってありがとうございました。俺にはこの仕事をやっているという自覚が足りなかったです。ごめんなさい》
見ると春さんも謝罪のメッセージを返信していた。
その日はなんて申し訳ないことをしてしまったんだろうという気持ちで、何をしていてもそのことを考えてしまっていた。
その中で、誰かがやってくれるだろうと思っていた自分がいたことにも気づいた。
今月は自分の担当月で忙しいし、この仕事の後にあるもう一つ、それなりに大きい仕事のこともあって余裕がないからつい後回しにしてしまっていた。
だから、誰かがやってくれるだろうという甘い考えを持ってしまったのだ。
一方、Lineは俺が返信した後は誰からの変身もなかったので気になって見てみたら、既読だけが付いていた。
さすがにこれには俺もびっくりした。
信じられないなあと思ってしまった。
確かに直接じゃないと意味がないとは思った。
でもまずは謝った方がいいんじゃないかな?無視って一番良くないんじゃないかな?
その日のお昼過ぎ、何も動きがないまままた始さんからLineが来た。
《昨日のLineから1夜経ったな。この話は終わりだ。全員に役割を一つずつ分担しようと思う。後で送るから少し待っていてくれ》
俺はこれを読んで安心してしまった。
始めさんはあんなことをした俺たちを見捨てないでくれたんだと。
何てすばらしいリーダーを俺たちは持ったのだろうと感激していた。
他のみんなは寮にいるわけだし、きっと直接謝ったんだな、そう思っていた。そして、水曜に帰った時、俺も改めて謝って、本番まで頑張ることを伝えればいいと思った。
これで話は終わったと思いこんでしまってたんだ、始さんの本当の気持ちも考えずに。
夕方、始さんが全員に役割分担してくれて、俺はつり銭の係になった。
去年は300えんを8人が持って来て足りないとのことだったらしく、今年はいくら持って行けばいいのか考えてほしいとのことだった。
ちなみにその他の係は、陽が施設の担当者との中継役(連絡係)、夜さんはおやきのレシピを全員にわかるようにまとめる係、海さんは会計の流れがメモとしてわかるような会計ノートを作るというように一人一人に役目が与えられた。
俺はその夜からさっそく釣り銭のことを考えて提案した。
意見がほしいと言ったら主に始さんと春さんが返事を返してくれて、だいたいまとめることができた。
残り時間は少ないが、とにかく自分のできることをやらなきゃ!そんな気持ちだった。
次の日からも全員のグループでの連絡は絶えず続いた。
俺は事務所にお金があるというので、どれだけあるのかを黒月さんに確認したり、それをノートにまとめたりしていた。
始さんの言葉で、みんなが気持ちを入れて動いているのがLineを通しても伝わってきた。
返信が早かったり、連絡が小マメになった。
いい雰囲気になって来ている。そう思っていたんだよね。
昨日のことは忘れようとしている自分がいた。
ところがその夜、春さんからLineが来た。
《みんな、こんな時にごめんね。今のままじゃ話が流れそうだったから言うけど、明日打ち合わせで集まる前に話をしよう。今のままじゃだめだと思うんだ。直接話そう。俺だって人のことは言えないよ。でもみんなに考えてほしくて今連絡したんだ。何で始めの長文に返信しなかったのか、明日聞かせてほしい。こんな時にごめん、嫌われる覚悟で言ってるよ》
もちろん春さんが言っているのは始さんの件だ。
俺はまた昨日みたいに気持ちが沈んだ。
みんなは何も言っていないのかな?
それがショックだった。
そして、流そうとしていた自分が腹立たしかった。
始さんのやさしさに甘えてしまっていた。
やっぱり明日帰ったらちゃんと言おう。返信したとかしてないとか関係ないんだ。
この話をしなきゃこの仕事は成功しない、そう思った。
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