Impatient pride【オリジナル】1
2017.12.14
「……この任務、降りよう。」
現場について辺りを見渡したヘルは、開口一番にそう言った。
彼女の普段の実力、控えめではあれど確かに見える自信を知る仲間達に動揺が走る。
――…発端は2時間前のこと。
ヘルをトップとする小さな傭兵団は、仕事の斡旋をする事務所にかなり高額の依頼があることを発見した。
内容は、「小さな村を軒並み滅ぼして、金銭と食糧をかすめ取っていく賊を打ち倒してほしい」というもの。
これに、正義感の強いエリアスが即時名乗りを上げた。
彼は元々ヘルが所属していた巨大な傭兵団で再会した、かつてロキと同盟を結んでいた海賊、ゲイルの一人息子である。
帝国に捕らえられた父を探して助け出すための資金稼ぎに、傭兵をしていたところ、ヘルと再会して行動を共にする事になったのだった。
「ヘル様、いかがなさいましょう?」
そう声をかけたのは、ガルム。
ヘルヘイムの女王「ヘル」に使えた番犬「ガルム」の力と意思を受け継いだ人間である。
今世に「ヘル」の力を色濃く受け継いだヘルと出会い、その瞬間から最も忠実なしもべとして彼女にひざまづいたのだ。
彼にとっては国が、世界がどうなろうと些細なことでしかなく、ヘルが全て、ヘルこそが絶対で唯一の存在である。
「……あたしは…どっちでも、いい」
気だるげにそう言ったのは、ヴィルヘルミーナ。
素性のわからない吟遊詩人(バード)である。
彼女はその歌に特殊な魔力が宿ることから、迫害されていた。
差別され、危害を加えられていたところにヘルが手を差しのべ、エリアスが彼女に暴行しようとした男を一纏めに叩きのめし、そして一行に参加する事になったのだ。
ヘルの目的は、帝国の前に倒れたロキの蘇生、そして魔法を弾圧する国家への報復であり、その一歩を踏み出しつつある。
なにをするにもまずは資金だと、傭兵業をはじめて数件仕事をこなしてそこそこの連携もできはじめていた。
「……報酬は……1500ゴールドか。装備の補填が出来る。
やろう。」
情報収集は、元盗賊であるヘルにとってはお手のもので、賊が次に狙うであろう村の予想も簡単に立てることが出来てしまう。
ロキ、フェンリル、ヨルムンガンドに鍛え上げられた彼女の能力は傭兵の中でも群を抜いていた。
エリアスは未熟だが、大斧一本で他の海賊をなぎ倒して行く父親の遺伝子を確かに継いでいる。
ただし、直情的で力に頼りきる嫌いがあるとヘルは分析していた。
ガルムは、「受け継ぎし者」の一人ということを差し引いても器用で何でもそつなくこなしてしまうし能力的には申し分ない。
だが、ヘルの事しか目に入っていない分、他の人間とは連携を組ませにくいのが珠に傷である。
ヴィルヘルミーナの歌は傷を癒し、魔力や体力、気力を高める力を持っていた。
だが、彼女は強固な壁を作ってある一線からは決して踏み込ませないという雰囲気を崩さず、連携においては不得手だった。
オールマイティなヘルが引っ張る形で、連携がきちりとはまれば素晴らしい力を発揮する部隊となるが未だ課題は多い。
傭兵業をこなして資金を稼ぎつつ、お互いの力を把握し呼吸を合わせること、そして帝国に反感を持つものとのコネクトを作るのが当面の目標だった。
今回のミッションは賊の討伐にしては金額も高く、最適なものかとヘルには思えたのだ。
ガルムが手配した人数分の馬に跨がり荒野を移動すること1時間……
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