終演からのはじまり【サイコ2直前】ルヴィク
2017.11.06
つづき
―
「ごめんなさいね、また」
「いいよ、大丈夫
カステヤノス刑事の助けになりたい」
メビウスに戻されて3年が経った。
まるで夢を見ていたかのように色褪せていく記憶と、時々胸をちくちくと刺していく甘い思い出。
そんな中で、再びカステヤノス刑事がSTEMに繋がれるのだと聞いた。
「コア」である、彼の娘を探すために。
この3年、ジュリ・キッドマンは軟禁される私の担当を勤めて、人間らしい生活をさせてくれたし、彼女の役にも立ちたかった。
「中であなたの護衛が先に待ってる。
セバスチャンが入ったら、彼と一緒に合流して頂戴。」
「護衛?」
私の問いかけに、ジュリはにこりと笑っただけだった。
――STEM、ユニオンに接続されると、見えた光景はモノトーン調の部屋。
ジュリの事前説明によればここが私の安全地帯のはず、
「うん!?」
意識がはっきりしたとたんに何か暖かいものに包まれる。
……苦しいくらいに。
その何かは私の髪をすくようにもてあそびながら、腰を撫で付ける。
「……う、わ……」
視界の端に揺れるボロボロの白い布に、鼻の奥がつんと痛んで、視界がじわじわと滲んでいく。
とどめとばかりに唇に思いきり噛みつかれては、もうだめだった。
「なぜ泣く……痛かったか?
……!」
ぐ、と抱き締め返せば、予想外だったのか彼の体が強ばった。
優しく私の抱擁をほどいて、覗き込んでくるのはケロイドだらけの整った顔。
涙を唇でさらっていくという甘ったるい行動をするなんて、彼は一体どうしたのだろう。
「会いたかった」
「っ、ちょ、ルベ、ン」
まさか彼の口からそんなふうな言葉が出るなんて、憎まれ口のひとつでも叩いてくれないと本格的に泣いてしまいそうだった。
褪せていた記憶に上から塗り重ねるかのように、彼の存在は確かだ。
「わ、私も……」
ルベンが優しい顔で口を開いたとき、けたたましい音が私の腰にある通信機から鳴り響く。
甘い空気は吹き飛んで、私は苦笑しながらそれを手にとった。
「あなたの護衛の『レスリー・ウィザース』にはもう会えた?」
いたずらなジュリの声に、これが彼女がメビウスに黙って行った私へのサプライズなのだと知る。
現実世界で、ルベンはレスリーに成り済ましていたのだろう。
「二人で頑張って」
「ジュリ、ありがとう」
本当に鋭くて賢い私の友人には、頭が上がらない。
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