終演【サイコ1】ルヴィク
2017.11.06
すべてが終わって、私は「保護」された。
セバスチャン・カステヤノス刑事の優しいてのひらが背中を撫でる。
……結末は、みんなが望んだハッピーエンド。
悪は消えて、正義が世界をあるべき姿に戻したのだ。
それでも私は、きっとまたメビウスに連れ戻されるのだろう。
……口は最悪に悪いけど、不器用で優しいあの人は、私を撫でるこの手が討ち取った。
怨んでいるかと聞かれれば、きっとイエス。だけど、正しいことなのだと理解もしているし、私は止めようとすらしなかったのだから何も言う資格はないのだ。
カステヤノス刑事は私を責めない。
ひたすらに、ぎこちなく、背中を撫でてくれるだけ。
優しくていい人なのだ、だから、怨みはすれど、憎むことができない。
何重もがんじがらめ、涙を流すこともできなかった。
「いたい」
「え?」
「痛い、悲しい!苦しい!痛い、悲しい、辛い、寂しい、寂しい!」
私をじ、と見つめながら叫ぶのは、色素の薄い儚げな青年だった。
……レスリー。
ルベンが体を奪おうとした重度の精神疾患患者。
その実、彼は純粋で無垢で、人の感情と完全にシンクロする力を持っている。つまり、今の彼の叫びは、私の心か。
「……」
やっと涙が溢れる。
私は、確かに、失ったのだ。
カステヤノス刑事が、気をきかせてか離れていく。
……メビウスには絶好の機会だろう、ジュリ・キッドマンが歩いてくるのが見えた。
また軟禁か、と身構える。だが、彼女はメビウスにしては珍しく人間味があるから酷いことはしない。
「……苦しいな」
「えっ」
レスリーの声だが、似つかわしくない静かで、冷ややかな囁き。
口許に浮かんだ自嘲気味の笑みはまるで、
「!」
比喩ではなく、唇に噛みつかれた。
突き刺さる一歩手前で緩む力に怯えるまもなく、唇に囁きがぶつかる。
「また、必ず」
「えっ、待って!ねぇ!」
いくら止めても、彼は振り返らなかった。
「どうしたの?」
「……キッドマンさん」
心地よいアルトが心配そうに問いかける。
じわじわ溢れる切なさで胸がつぶれそうだ。
「……じゃあ、さっきのは、私のじゃなくて……」
「……泣かないで、だいじょうぶよ」
抱き締めてくれるキッドマンさんは、優しい匂いがした。
……この人だけはメビウスで唯一私の気持ちを気遣ってくれるのだ。
ねぇ、また って
信じても良いですか。
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