はじまり【サイコ1】ルヴィク
2017.11.06
出会い
―
壊れた自尊心と、精神的順応性。
メビウスに連れ去られた理由はそれだった。
普通に生活していたならまず、人類すべてをひとつの思考で繋ごうとする、この非人道的な組織の存在に気づくものなどいない。
こうして私は完全に、一般社会から切り離されたのだ。
「……あ……」
ビーコン精神病院、STEMという機械に繋がれて精神世界における、精神の暴走を止めるために使われる予定だった。
その精神世界で更に私をメビウスからさらったのが、このボロボロの白いフードを被った火傷だらけの青年だった。
瞬間移動や、物理法則の破壊、手をかざすという手段のみでの殺/人
……彼は、精神世界を歪めることができるサイコパスだったのだ。
ゾンビのように町を徘徊する化け物も、金庫が頭になった化け物も、すべて彼が生み出してしまった。
……なのに。
「食え」
差し出されたのは、ごく普通の、清潔なお皿にのせられたケーキだった。
艶々としたチョコレートがとても美味しそうで。
そういえば、メビウスにいたころは人体に最低限必要な栄養の摂れる食事しかしていなかったと思い出す。
ルヴィクのところに来てからは、拘束も……軟禁すらされていない。
「あの、これ…」
ずい、と更に押し付けられて、おずおずと一口。……甘かった。
「美味しいです」
「日本人か」
「えっ、はい」
「……」
「あの……」
彼の、細くて長い指先が私の髪をすいて撫で付ける。
その間も無言、無表情で私が言葉に詰まってしまった。
悪意や、敵意なんて感じられなくて不思議と恐怖もない。
「私が恐ろしいか」
「え、いや……今は。」
「……は、」
笑うと少しだけ幼く見えるのか、と妙な感動を覚えた。
「……ケーキなんて
私を生かすのには別に必要ないですよね
ここ、STEMだし、そもそもあの……食事……
それなのに……」
恐怖はなくとも、ひたすらに無機質な目で見つめられてはしどろもどろにお礼もままならない。
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