Impatient pride【オリジナル】2
 2017.12.17
「何でだよ…!」

信じられない、という顔でまず声を上げた青年エリアス。
再会してからは見ることがなかった、かつて少女だったヘルが度々した不安げな表情が戻っている事に気づいて息を飲む。
父親がガシガシと彼女の頭を撫でてガハハと笑い、刺客を斧でかち割ったのを思い出す。
だが、今の自分にはまだそれができるほどの実力がないことは百も承知だった。

「……やられてる。」
「はぁ?何言ってるんだよ、村の人間みんな無事じゃないかよ」
「ヘル様?」

店じまいをする露店、明かりを灯す民家…エリアスの目には賊がここに現れたようには映らない。
ガルムですら怪訝そうにヘルの顔を覗き込む。
ヴィルヘルミーナはいつものように無言で、興味なさげにリュートを抱え込んでいた。
特に整備もされていない道に立ちすくむヘルが、ぼそりと呟く。

「……本当に、わからないの?ガルム」
「……え、ええ。」

ひとつ、間を置いてから小さな小屋に入り込み、手招きをしたヘルに皆が続く。
燭台を取り出し、手をかざして炎を灯したガルムがヘルの言葉を促した。

「事務所に提出された書類には、嘘がある。」
「と、言いますと、」
「賊は村の者を皆殺したりしていない。

盗賊が襲ったのはどこも、村にいる富裕層の家だけだ。
やり口が全然ちがう。
全部の村を『烏』と『蛇』に見てこさせたって言ったでしょ?」

道中でヘルが確かにそう言ったのを思い出し、それぞれが頷いたのを見て彼女は続けた。

「……村人は逃げ惑って斬られたり撃たれたり……様々な死に方をしていたし、民家はいかにも『賊の襲撃にあいました』、っていう無惨な壊れ方をしていた。

もともと少なかっただろうに食べ物も奪われて。」

エリアスは自分のこめかみがピクリと痙攣するのを感じ、怒りを抑えるためにひとつ息をつく。
怒りに身を任せていいのは戦いの場だけだとは、父の教えだった。

「でも、富裕層の家はそうじゃない。
村人から金と食糧をせしめてた領主は心臓をひとつき。
毒も炎も使わず建物には傷ひとつつかず、金品だけがきれいに無くなっていることと豚が死んでること以外に形跡がなにもない。

ねえ、同一犯だって言うなら逆なんじゃないの?」

は、と息を飲む。
そもそも富裕層だけ襲えば金品は手に入るし食糧も例外ではないはずだ。
それなのに村人を襲う意味は?
惨殺する意味は?

むごったらしい殺し方をするのが目的だというなら、領主の邸宅を静かに襲う意味はまるでない。

エリアスが驚きに言葉を選びあぐねていると、妙に冷静なヴィルヘルミーナが炎を指先で弄びながら呟いた。

「じゃあ何で村人死んでるの」
「そりゃ、領主いなかったら村の警備だってまわらないだろうし盗みやすくなるんじゃないか?」

エリアスが発した言葉に、ヴィルヘルミーナの淡泊な視線が突き刺さる。

「あたしが賊なら、領主のものが奪われて何もない村なんて旨味なくて襲わない……
手間ばっかかかって何もないんじゃ得しない
ただ殺したいだけにしてもわざわざ……」
「わざわざ?」

それこそ核心とばかりにヘルが鋭い視線で先を促す。

「……わざわざ、領主のいないところばっか、狙わない……あ、」
「そう。被害にあったすべての村で生存者がいない
どこも全て、領主の家だけ綺麗なのがおかしいと思ってた、
ここにきて確信したんだよ、
わざわざ領主殺しの後を追って村を壊滅させてるやつがいる。」


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