“イヴェール”は、迷ってるんだ。 僕が存在して良いのか、それとも一体化しないといけないのか。 ここのところ最近“イヴェール”はそんな事ばかり考えているらしい。 僕と一緒に何時も居るのに。 僕が何時も側に居るのに。 僕は何時も一緒に居るのに。 僕 と 同 じ 身 体 な の に 。 それでも、何故か“イヴェール”は迷ってるんだ。 そして“イヴェール”は時々、僕が居ない間は玩具で自慰したり名も知らぬ誰かに跨って淫乱に腰振ったり、自分で自分を死に傾かせたり自分の首に手を引っ掛けて首を絞めようとしたり、自分の口に手を突っ込んで胎内のモノを吐き出そうとしてるんだって。 あのね。僕は知ってるよ? “イヴェール”は寂しいんでしょ? 僕に構って欲しいんでしょ? 独りになりたく無いんでしょ? 何で僕に泣いて縋りついて来ないの? じゃあ、何故そんなに苦しみたがるの? 何故、そんな哀しい顔するの? 「……ね。“イヴェール”」 「やだ……来ないで、来ないで!! “ノワール”……!」 「御免ね、今まで辛かったでしょ?」 「やめてっ、来ないでよ!!」 「大丈夫だよ、死には傾かせないから」 「違う……違う……! 別に僕は死にたくない! だから……ッ!!」 ギュウゥンと機械的な音を立ててぎざぎざに尖った刃を回らせるチェーンソーを持ったノワールは、青ざめた表情を浮かべているイヴェールにじりじりと追い詰めるようにゆっくり一歩ずつ近付いていく。 イヴェールは何が起きているのか訳が分からず泣き叫ぶばかりで、接近してくるノワールから逃げる様に後ずざっていくが直ぐに逃げ場を無くしてしまった。 屋敷の部屋の隅にイヴェールを追い詰めたノワールは、完全にイヴェールから逃げ場を無くすと、チェーンソーの引き金を思い切り引っ張ったりして刃の回転を早める。 可笑しそうに、何処か嬉しそうに、楽しそうに……微笑みを浮かべながら。 「イヴェールは傷付くのが好きなんでしょ? 何故嫌がる必要があるの?」 「ちっ……違うの! 決して僕は……!!」 「大丈夫。大丈夫だから、ね?」 「来ないでぇッ!!」 「怖くないよ、逆に気持ち良くしてあげるから……ねぇ、イヴェール?」 回転の速度を早めたチェーンソーに気付いたイヴェールは必死に首を振る。が、それは全然無意味に過ぎなかった。 ノワールは嫌がるイヴェールの反応に気を良くすると、怪しげに笑みを浮かべてチェーンソーの刃をイヴェールの首もとにあてがう。 ・・・・・ 「“イヴェール”を楽にしてあげるから」 にっこりと、裏の無いような微笑みを浮かべる彼の告げた、イヴェールへの一言が消えると、その後屋敷から発狂した様な気違いな悲鳴が聞こえたらしい。 全ては冬の天秤が、闇から生み出した冬の天秤の愛に狂った妄想から出来た、ごく普通に平和な一日だったそうで。 (君と僕、同じ顔で同じ姿。逃がしはしないよ、気持ち良くなろう……?) end. |