あの二人の様にいれたら






「イヴェール。ちょっと此方へおいで」
「ん、何……あっ、サヴァンだ!」

 一つの大きなベッドに仲良く並んで、イヴェールそしてヴィオレットとオルタンシアが一緒に古びた分厚い本を読んでいた昼下がりの事だった。
 寝室の扉からひょこり、と顔を出してサヴァンは此方に手招きをする。ヴィオレットとオルタンシアが挟んだ真ん中にいたイヴェールが、読み途中の本を伏せて近くの小棚に置いた。無邪気に親の側へ駆け寄る子供みたいな満面な笑顔を浮かべ、イヴェールはサヴァンに近寄っていった。
 お互いに挨拶代わりとは云えないであろう挨拶の深いキスを交わし、イヴェールはサヴァンの身体に飛び付く。


「Bonjour.ムシュー・サヴァン」
「ああ、Bonjour.イヴェール」
「急にやってきてどうしたの? ……あ、もしかしたら何かお土産でも持ってきたんだね!」
「お、良く分かったねイヴェール」
「えへへ」
「まぁ何だ、大した事では無いのだが、沢山お菓子を貰ってね……私一人が食べてもつまらないし食べきれないのだよ」
「ふぅん。いいなぁ……」
「物欲しそうな顔をしているね。……ふふ、君も食べるだろう?」
「え……あ、うん!」

 ほのぼのとした甘い雰囲気をもう辺りに漂わせている二人は、すると否や部屋を出ていってしまった。誰から貰ったの? ん、とある異土に住む屍体の男と人形からさ、と声が遠退いていくのがわかる。
 扉越しに話していた二人が部屋から去り、ベッドに残されたヴィオレットとオルタンシアの双子は、イヴェールが座っていた真ん中の温もりが冷めていくなど気付く事なく、何気なく真ん中を埋めるように身体を寄せあった。

「うふふ、ヴィオレーット」
「きゃあ!」

 不意に隙を突き、何事も無いはずなのに嬉しげな表情でオルタンシアはヴィオレットに抱き付いた。突然の行動に、ヴィオレットの身体が跳ね上がる。

「な……何するのですわ、オルタンス」
「何って、ヴィオレットが可愛いから抱き付いたまででしてよ」
「可愛ッ……!? んんっ。……もう、オルタンスってば」

 頬を仄かな桃色に染め、素っ気ない態度を見せようとするも何処か喜んでいそうな反応に、思わずオルタンスは笑みを零した。改めて冷静を保とうと軽く咳払いするヴィオレットは、きゅーと抱き付くオルタンスから、気恥ずかしさに顔を逸らす。

「ねぇヴィオレット?」

 柔らかい素材の服に埋めて顔をもぞもぞ動かしながらヴィオレットの顔を見上げ、オルタンシアが問い掛けた。

「もう……何度目なのでしょうね」
「何がですの?」
「私達がこうしていられるの」
「……それが?」
「ムシューなんて、サヴァンと出会ってからずっとあの調子で嬉しそうな姿、何時も二人一緒ですわ」
「ええ、そうね」
「私達も、こうだったら宜しかったのに」
「……え?」

 どき、とヴィオレットの中で見えない心臓が跳ねる。

 其れは何とも云えない期待感。

「ん――っ」
「お、オルタンス! く、くく、くっつき過ぎですわ!」
「良いじゃない。私はただヴィオレットだけが好きなんですもの、甘えるくらい、宜しいでしょう?」
「そ、それは……まぁ、嬉しいですけども、でも……その……」
「……ふふっ」
「……ああ! わ、わざとですのね、オルタンス!」
「さぁ? 何の事でしょうーふふ」
「もうっ、オルタンス!」
「うふふ、冗談ですわ。機嫌なおして?」
「…………むう」

「でも……私達も、あのお二方の様に何時も二人一緒ですわよね? 私、ヴィオレットが好きですわ。貴女は?」

「うっ……も、勿論……私もオルタンスが、好き……ですわ」
「……まぁ! ふふ。ヴィオレット、顔赤くなりましてよ?」

「なっ…………!」


 そ、そんな事ありませんでしてよ! と、その部屋からは、必至に拒否する声が響いた。









end.



何気にオルヴィオ。




あきゅろす。