己の欲望に秘めた小さな火は微かに心の端に灯っては、一瞬にして燃え広がる熱情へと変わる。
 僕の理性と云う名の蝶でさえ、貴方の所為で勝手に羽根から鱗粉が独占と変わり、貴方を包みこんだ。
 誰も足を運べぬ二人だけの闇黒の世界で、小さな蒼い灯火をその場の真下で身体を重ねると、組み敷かれた同じ顔をした双子の冬天秤である恋人は、自ら指を絡めてくる。だが直ぐに冷めてしまった熱は、僕の理性が勝手に動き恋人の手から指を解いた。
 何時もは抵抗する貴方なのに今日は素直で、でも少し嬉しかった。その代わり僕は、素直に恋人の唇に指を滑らせ、そのまま舌へと指を差し込んだ。
 この冬天秤である恋人と僕はそっくりと良く似た身体で創られており、それに加え存在してはならない冬天秤であるとして、もしもコレが許されない事なら、尚更この欲望に染まった感情が余計に燃え上がるではないか。
 ふと恋人の舌から指を解放し、軽く口付けをかわすと恋人は自ら抱き付いてきた。

「……やけに素直だね、イヴェール?」
「ハッ……はぁっ……煩、いよ……良いから……抱き締めて、御願い……」
「……望むがままに」

 僕が存在し始めたのは、恋人――このイヴェールの持つ闇の影響で寂しさを見せてきたから無意識に創りだされたのだった。
 誰かに愛されたい。自分を離して欲しくない。もっと抱き締めて欲しい。この愛が、この現実が間違って居ないのだと、自分自身に知らしめるために。
 何て自分勝手な。

「ノワールッ……もっと、もっとキス……頂戴……?」
「……貴方こそ五月蠅い口だね」

 云われなくてもしますって。
 今のこのお互いを求める感情は凄く愛おしく、狂おしかった。
 愛に溺れたこの魅惑には、とても叶いそうにないみたいだ。
 ああとてもこの恋人を束縛したい。もっと僕を必要として、甘えて来てほしい。
 だがこれじゃあ貴方は僕を求めないでしょうね。
 “おかしい”? そんなの関係無いくらい、好きになってしまう。貴方が求めてきたのだから、もし無理ならば行ける所まで行けば良いだろう。

「……貴方がそんなに欲しいと願うなら、もっと僕を必要としてよ……イヴェール」
「何、が……」
「僕だって……貴方が欲しい」

 僕の元に迷い込んだのは、貴方の心。弱いその心は簡単に融けて、優しさなんて感じる暇など無い位に酷く心地よかった。
 ああ、前に繰り返し見たのはあの夢ではなく紛れも無く此処として現実に居る僕達。存在してはならない僕が貴方に触れてから、もう戻れないと知ったのは――……

「……っ、ふ……」
「……泣いてるの、イヴェール?」
「ノワール……っ」
「嗚呼……ごめんね、泣きたかったら沢山泣いていいよ……僕が居るから。可愛いよ、僕のイヴェール……」

 でも、それでもいい。誰よりも、何よりも大切な貴方が居るから。
 貴方がこの現実を突き飛ばしたとしても、やがて僕の元に引き寄せられるでしょうね。
 僕と貴方は、離しても離れない欲望に溺れた様にシツコイ、歪なマグネットなのだから。

(貴方を突き飛ばしても離れないこのマグネットは、僕と貴方の為にある愛の証)



end.






今は閉鎖したけど別サイトでアップした小説を黒冬冬verにしたものだったり。
元ネタはボカロのmagnetから。




あきゅろす。