※盗賊s。煙草。






「おい、てめぇに荷物が来てんぞ」
「あ、マジで?」

 コトン、と簡素な音が玄関から聞こえたのは午後の事だった。
 夜分遅くなのだからか、他の盗賊仲間は何処か街中を出かけていて建物の中には俺とイヴェールで留守番していた。別に何か注文した訳じゃあるまいし、そんな夜分に玄関からの物音に疑問を覚え、イヴェールに頼んで向かわせては、俺に荷物が届いていると云う事で「あれー?」と首を傾げる。
 何か頼んだっけ、と記憶を辿らせつつもイヴェールからその荷物――中サイズの箱を受け取る。手に取った時の感触は、何やら箱の中に小さい物が幾つも入っている様で軽いくらいの重さで。まさか宝石か? と目を輝かせたが、イヴェールに一蹴りされた。

 どげしっ

「Σいって! ……何だよ、脛を蹴る事ないだろっ」
「馬鹿野郎。俺がてめぇなんかに宝石を注文する訳あるか」
「何だよー、ちぇっ」
「ぶっ殺すぞお前」

 脛を蹴られ鋭い痛みにおおぉ…と呻きながら蹲る。きっぱりとイヴェールは否定したので、肩を落とさずに居られず業と舌打ちをかます。やべ、真顔でぶっ殺すとか云われた。
 全く、素直じゃないなぁ。

「で、てめぇは何を注文をしたんだ」
「え? ああ……」

 話を切り出し、イヴェールが問う。何を注文したと聞かれても、思い出せないのは変わり無かった。
 そういや何を注文したんだっけ。
 幾ら頭に記憶を探っても思い当たりは無く、不思議と自覚が無い。……そういえば、三日前の事が思い出せないのは何故だろう。

「いや俺もあんま覚えていないんだよな」
「は?」
「だから覚えていないんだって」
「……お前は馬鹿か、ローランサン」

 溜め息混じりにイヴェールが肩を落とす。仕方ない事は仕方ないので取り敢えず箱の中を開けてみる事にした。
 箱の口を塞ぐ赤い紐を器用に解き、箱の口をがぱっと力加減さながら開けてみる。すると、箱の中には何箱も小さいタバコの箱で埋まっていた。

「……タバコ? 何で?」
「知るか。てめぇが注文したんだろーが」
「だから知らないって。強気に云うなよー」

 箱の中からタバコの箱を取り出し、数本あるタバコを一つ指で摘み舐め回す様に眺める。別に変わった所もおかしい所も無く普通のタバコだった。そんなタバコがこんな多量も送られてきたのか、疑問に思いつつも誰かの間違いかも知れないと二人で納得した。

「まあ、最近は一服する余裕無かったしな。丁度良いだろう」

 イヴェールは口元を釣り上げ平然とタバコを取り出し、部屋の二階へ繋がる階段へと歩いていく。最近は仕事で忙しいから一服する暇が無いのは確かにそうだ。タバコを口に咥えながら、上機嫌に二階へ上がっていく。そんなイヴェールを見送りながら、俺は新聞でも読みながらイヴェールみたいにタバコを吸おうかな、なんて。
 大量に入ったタバコの箱を迷いもなく適当にテーブルに置き、お気に入りの葡萄酒を探そうと台所へ向かう。そういえば、と最近買った葡萄酒を思い出し、イヴェールにも別けてやろうかとワイングラスを棚から取り出そうとした。
 だが。

「……んあ?」

 不意に足元がぐらつき、傾いた身体を支えようと棚に手を尽く。眩暈と同じ様な感覚に頭を抱えた。
 ずきずきとこめかみが痛む。何だろう、今までこんな頭痛は無かったのに今更。

「………………!!」


 急に、視界が真っ暗になった。




*





 ふと、我に返るとイヴェールが寝室のベッドに倒れていた。――いや、正確に云えば俺が押し倒したのだ。

「ッ、てめぇ何しやがる!!」

 急に訪れた出来事に理解しずらいのか、シーツに埋もれたと思いきやイヴェールは憎悪を抱いた様に表情を歪め、起き上がろうとする。だが、俺はその行動を許さなかった。
 ――犯したい。イヴェールを、その強気で憎しみ深い表情を苦痛と快楽に歪ませたい。
 沸き上がる欲望に興奮を隠せなかった。……自分でも解らない。何故こんな事をしているのか、何故急にこんな衝動に駆られたのか。気が付くと俺は、イヴェールを再びベッドに押し倒していた。抵抗しようと身体を必死に動かそうともがいているイヴェールを、無理矢理ベッドに縫い付けて服を脱がしていく。ぶちぶちと力任せにシャツを破れば釦が飛び、イヴェールの白い素肌が露になった。微かな気恥ずかしさに珍しく不安の瞳を震わせるイヴェールは、何時もの余裕さを無くし怒鳴るように叫ぶ。

「てめぇ、気安く触るんじゃねぇぞローランサン!! 何を考えてんだッ」
「………………」
「あ……? 俺を犯そうってのかよお前ごときが、こんな事しても無――……っ!」

 蝿の様に五月蠅いその唇を咄嗟に塞ぐ。冬の名前だけあって雪の様な露になった肌を滑り、イヴェールの膨張させた分身の形を確かめる手付きで膨らんだ其処を下着ごしに触れた。迷いもなく下着の中に手を差し込み、直接触れたそこは薄く先走りが滲んでいて微かな震えが伝わってくる。

「なっ……さ、触っん……な……っあ」

 ぴくり、とイヴェールの肩が跳ねる。羞恥から来るのか紅潮させた表情が色付いていて一瞬可愛いと思った。
 だが、俺の本能は違っていた。其れ迄イヴェールの自身に進めていた手の動きを止める。

(…………違う)

 こんなものじゃない。

(……違うッ……!)

 快楽なんかで歪ませたいんじゃない。もっと、苦痛で歪むあの表情が見たい――


「はッ……ろ、ろーら、ん、さ……っふ」
「……ごめん、イヴェル」
「ふァ……?」

 丁度近くのテーブルに置いてあったタバコに手を掛ける。夢中でタバコにライターで火を付ければ空へと上がる煙が浮き、何故だかとてつもない興奮が沸き上がる。

「……やべぇ」

 無意識に漏れた自分の隠れた独り言。興奮を隠し切れずに思わず呟いた言葉でもあった。
 ああ、イヴェールの表情をどうやって歪ませたら気持ち良く思えるんだろう?
 そんな事を思っていると、何だか俺の中で歪な欲望が膨らんだ様な気がした。


 じゃあ、所有印として煙草を身体の所々に押し付けたらイイ声で鳴いてくれるかな。

「なぁ、イヴェル」
「ふ……っ、な、んだ……」
「熱いの、好き?」

 ――ジュッ

「あ……?」

 ――ジュウゥッ

「あ……あ゙っ、あ゙あ゙あ゙あああぁぁ゙あァア゙ッ!!?」

 寝室中に低い悲鳴が響き渡った。肉が焼ける焦げた臭いが鼻を突く。そうだ、今、俺イヴェールの身体に煙草を押し付けてるんだ。
 焼け付く熱さと声にならない様な激痛にイヴェールが無我夢中で藻掻き始める。紅潮していた表情が一気に青ざめていて、普段見られない違うイヴェールが居た。
 何をしてるんだろう、俺。
 イヴェールの腕、腹、胸、足、頬にどんどん火の付いた煙草の先を押し付けていく。その度にイヴェールが悲鳴を上げ、その様子は発狂したようだ。思い切り見開いた双眸からはぼろぼろと涙を零し、これでもかと云う程首を振り逃げようとする。

「ああああッ!! あっ! あ゙ッッ!!!! がああぁぁあぁあッ!!!」
「駄目だよ、イヴェル。逃げるなよ」
「離せッ!! 離せ離せ離せ! 止めろ止めろ止めろおぉぉっ!!!!」

 苦しんでるイヴェールと対照的に俺は酷く冷静だった。いや正確にいえば内心で興奮を思い切り曝しているのだけど、やはりイヴェールの苦痛に歪む表情、上がるかなきり声の様な悲鳴。
 やばい。何コレ悶える。

「あ…………」

 ふと、視線を逸らしてイヴェールの顔を覗き込むと、見開いた双眸の中で揺らめく瞳に目が付いた。
 綺麗な、宝石の様な瞳。
 そうだ、コレにも所有印を付けてしまえ。

「ひっ……ひあっ、あ゙、あ゙……止め、ローランサン……!!」
「可愛いよイヴェル。ごめん……ちょっと俺、イヴェルに我慢出来ないかも」
「……ッロ、ローランサン!! な、何する気だっ、止めッ――」





 ジュクッ。






 ――後程から解った話。
 ふと目が醒めると、其処は寝室だった。多分、イヴェールの元にやってきてから寝てしまっていたのかな。
 あれからの記憶が殆ど無くて困惑しようにもどうすれば良いのか解らなかった。
 だが、ふとベッドに目を寄越すと、其処には――


「……イ、イヴェルッ!!?」


 身体の所々の肉が煙草の跡で焼け爛れ、目を見開いたまま失神していたイヴェールが寝転がっていた。
 勿論、片方の瞳が焼け焦げている姿で。





end.






あきゅろす。