灰色の雲と暗い夜を染めつついる薄水色の空に朝日が色付けをし始めた頃、ふっと眠気が吹き飛んで意識が目覚めた時、僕は気怠げに身を起こした。 現在、朝の四時半を告げる外の景色――東京と云うこの街は未だ人気は居ない様子だった。と云うより、昨晩に雪が降った所為かこの街の所々が真っ白に染められている様に思えたのだ。 朝っぱらから室内の温度さえ低く、少し遅れてからやってきた寒気に、ぶるりと身体を震わせた。 「寒……っ」 僕の家は二階建ての一軒家だから、一階のリビングに降りてみると、そのリビングには誰一人も居ないと云うか、まだ寝ている様だ。寝室にはまだじまんぐが寝ている筈。昨晩は友人と飲み会に行って来たらしく、幾ら酒を飲んだのかは知らないがそれだけ遊び疲れたのだろう。 今日は僕が一番に目が覚めたと云うべきか。 朝っぱらのテレビは、何か面白いのはやってないと知っていながら、何故か無意識にテレビを付けてしまってるのが人間。 だが実際付けて見ると、どのチャンネルも現実的にニュースや通販の番組ばかりで、ちっとも面白くない。何でこの時間くらい面白い番組を用意しないのか、と思う僕は馬鹿だろうか。いや、朝っぱら面白い番組は無いくらい当たり前の事なのだが。 それにしても朝は少しだけ明るいけれど、じまんぐが起きて来ない地点で静かすぎる。別に寂しいなんて思ってはいないが、それもまた時によっては、こんなのも良かった気がする……なんて思うのもある。 ちっとも面白くないテレビを見ながら、無地のふかふかな感触を楽しませてくれるソファーに座る。身体が沈む感触はやはり心地好く、僕はこのソファーが大好きだ。 ……そんな所でさえ、結局訪れるのは暇と云う僕の敵。暇なのは何時もの日課だが、相変わらず僕はこの暇が慣れない。 何せ今迄は仕事に熱中しては寝て、作詞を考えては寝て……決まった行動ばかりが当たり前だ。 (…………つまらない) 仕方が無いので、今日について色々と考えてみる。どうでも良い事ばかりで、普通な日常に不可解な出来事が起きる事は無いくらい分かってる。けれど、そんな体験をしてみたいなーと思ったりする。 暇と云う僕の時間。この暇は、何時も僕と共に居て離れない。 だが、場合によっては、この暇も嫌いじゃない。 「あ……今日、あの人の誕生日……」 今更になって大事な事を思い出す。そうか、思えば今日はあの人の誕生日だ。 ――誰かって? それはヒミツ。 面倒臭い、と毒付きながら、ソファーの目の前にあるテーブルに上半身を伏せてみる。昨晩の夕食がじまんぐが作ったハヤシライスだったから、その匂いがテーブルに染み付いたままらしく、何か腹が鳴った気がした。 ――何もする事が無い。まあ、朝っぱら早く起きた事だし、二度寝しろと云う話なのだが、今は何となく二度寝する気分ではなかった。こんな気まぐれの為に、其処まで動く気がしないのは誰だってある筈。 不意にテレビから流れる簡素な音楽。それは、もう朝の五時を知らせる合図だった。 何て時間と云うものは早いんだろう。と云っても未だ五時だが、外を見れば会社員か何か仕事目当ての人間があるいている。 そんな事を考えながらも、リビングの扉が背後で開くのを聞き「おはよう」と挨拶を普通に返してきたのが――じまんぐだ。 リビングに入ってくるなり、付いているテレビと僕に気付き真っ先に掛けた言葉を口にした。 「あれ、Revoちゃん……起きてたの?」 ……なんて普通すぎる言葉だ。 相手がじまんぐだから、少し天然な所くらいあるのは目に見えている。普通すぎる言葉に嫌味を返しても、どうにもならないのは当たり前か。通じないだろうし。 「あー……うん。何か早く目が覚めたからテレビ見てた。じまんぐ何か作って」 「はいはい……Revoちゃんは早起きだねー。今から作るけど……何が良い? 珈琲は?」 「…………Blackで良いよ」 香ばしい珈琲の味を楽しみにしながら、僕はじまんぐの背中をずっと見据えていた。 (……じま、背中広い) (Revoちゃんは痩せてるのっ) (でも、じまんぐの背中好きだよ、) (…………有難うございます) end. |