※そう、騙す為にある。の続編モノ(?)。無駄に長いです。思いっきりR18なので要注意。 さらに別地平線、捏造含み。 “これからは、“クリストフ”の時間だ” 冷めた様な言葉を発して、彼は何を思っただろう。 その言葉を紡ぐ、姿や声は同じであろうとも、全てが変わってしまった目の前の恋人が浮かべた微笑みは、とても残酷なモノとなっていた事に気が付いた。 今まで優しく、大切に愛してくれた恋人はもう何処にも居ない。その代わり、目の前に居たのは本当の恋人であったんだ。 それは、独占欲に支配されてしまった只の汚れた獣の様でもあり、僕はただ、翼をもがれた鳥にしか過ぎない存在であって―― 「――ッ、会い、たい……サヴァンにっ……サヴァッ、サヴァ、ン……っ」 「まだ……その名を呼ぶのかね? 君も飽きないな。いい加減、クリストフと呼んだらどうだい……冬の天秤、イヴェール」 そうやって貴方は僕に現実を気付かせようとする。 相変わらずな優しい声、熱を帯びた自身を慰める大きな手、真っ暗で分からないけれどさらさらとした茶金の髪、紛れもなくサヴァンである筈のクリストフは、僕の耳でそう囁いた。 このクリストフに、檻と云う名の屋根裏部屋に閉じ込められて、今日で何日経つだろう。一週間? 一ヶ月? それとも――何て、クリストフが顔を出すたびに、つくづくそう思った。 顔を出すと云えど、挨拶にくれば愛玩動物の様に僕を犯し現実に気付かせるまで論ずれば、無駄だと分かり帰っていく。そんな下らない事ばかりの繰り返しだった。今だって、サヴァンにしか全てを委ねないと誓ったこの身体も、クリストフによって約束を壊されてしまった。 勿論、鎖に繋がられている所為で逃げ出すのもままならない他、相手が彼(クリストフ)と云うだけあって逃げ出しても、頭脳知識が高い彼は僕を地平線の果てまで追い掛けるだろう。 生憎、僕の大切なミシェルも、今は彼の手のひらに包まれているだろうから。希望なんて、クリストフから逃げるにはどんな作戦などがある? どう抗ったって、逃げる術など無い。 「君が私のイヴェールになった以上……逃がす事など私が容赦しないからね」 「……貴方、の……裏切、りものっ……僕は、ずっと……貴方を、信じて、今を生き、る……彼等に――」 「……訪れる朝を逃してしまう愚かな者達に、今の状態で君は何が出来ると思うかね?」 「ッな……!!」 「彼らが生きる物語上――否、君には到底、朝に傾かせる事は無駄だ。例え、君が私から逃げ出して朝に染めようとも、人は必ず死ぬ運命だからね……」 ――それは僕に、全てを夜に染めてしまえと云うのか。 死んでいく夜。生まれてこなければならない筈の朝を、死なせることしかならないのなら、今を生きる人間は、間違いなく存在から消えていくだろう。残ってしまうのは、無惨な残骸と紅に濡れた荒野。ああ、それでも僕は…… “ただ、幸せな物語を彼等に見せたかっただけなのに” 「っ……ふ」 「……云っただろう? 君が見ていた今までの全ては、全部君を騙す為の幻覚だったのだ、と」 「そ……れにっ……何の、関係……が」 「……イヴェール、君は実に優しい子だね」 クリストフの太くも細くもない腕が伸び、そっと僕の髪を優しく撫でる。その間にも、クリストフの空いた手で脚を開かれて、露になっていた僕自身が彼の目に曝け出された。鈍かった筈の感覚が裏表反転し、これからされる事を理解した。 それは、僕を十三度目によって犯す事。 「やっ……い、嫌だ! 痛い、のはっ……嫌だ……!! や、止め……て!」 「何故? ……と云っても意味はないんだがね。イヴェール、気持ち良くなりたくはないのかい?」 「嫌だ……気持ち、良くなん、かっ、なりたく……ない……!」 但し、どんなに嫌がったとしても逃げ出す事は到底、無意味に過ぎなかった。 クリストフは辺りに投げ出されていた卵形のローターを掴み、僕の緩んで広がってしまった小さな秘部に押し込む。悔しい事に精液のお陰でローターを美味しそうに銜え込んでいく。異物感を感じたが故に無意識にローターを押し出そうと、腰に力を入れるがどうやらクリストフの力が強いらしく、拒む筈のローターは胎内の奥へと閉じ込められてしまった。 「あ……あっ、あ、うあああぁッ……!?」 「イヴェール、」 「うあぁ……うああうっ、あ……あ……怖い……怖いッ、怖いよクリストフ! あ、ああ……! 怖いっ、怖い怖い怖い! こ、ここ怖いぃぃッ!!」 「くくくッ……そう、その顔だイヴェール。恐怖に怯えた表情がまた可愛らしい……実に素直な子だね」 クリストフが囁く度、ぞくぞくする感覚と共に必至に泣いた。何度も受け入れた快楽が、自分の中の淫乱さが出てくるのが――そして、クリストフが犯してくる事自体が怖くて。 「止め……止めて、クリストフっ……僕を玩具にしないでッ! 貴方の玩具だけは嫌ァ!! 止めて、止めてえぇっ!」 しかし、どうしても逃げ出せる筈がなく。目の前に居るのがサヴァンの姿だから。 サヴァン。だが目の前に居るのはサヴァンでは無く、あのクリストフなのだ。 駄目だ、逃げられない。 「イヴェール……私が何故君をこうやって監禁するか解るかい?」 クリストフは、そうやって嫌がる僕に黒く染まった残酷な笑みを向けて、嬉しそうな声でこう告げた。 「私はね、ただイヴェールの泣き叫ぶ声が聴きたかっただけなのだよ」 僕、の……泣き、叫ぶ声……? ――クリストフの言葉が、絶望の淵に立たされた僕の微かな意識を支配する。古い涙を流した跡を、新しい涙が目元から零れ落ちるするが、それと別に掻き毟ろうとしても存在する事の無い罪悪感はじわじわと僕の身体を蝕んでいく。少しずつ、壊れていく様な。 一体何を信じたら良いのだろうか。目の前に居るクリストフさえ、あまりのショックで誰なのかも解らない。 もう、何も解らない。 ぼんやりと生気を失った様な思考は最早見えざる煙となり、考えると云う行為さえ思う事など到底無駄な足。真っ白な頭を抱え、情けなく薄く開いた唇から決まった母音だけを発し、残酷で綺麗な笑顔を浮かべるクリストフを見据えるだけ。 「あ……う、あぁ……あ、」 ――ああ、そうか。どのみち、僕はクリストフの言いなりにされて、奴隷の様に命令を聞いて従うだけの道具に過ぎないのだ。 段々と薄れゆく意識はちょっとだけ気持ち良く感じた。感じたと云っても、その感覚だけしか残っていない為に勘違いしてるだけかもしれない。 クリストフの笑顔は――そのまま、優しいあの時のサヴァンと同じだった。 大きくて暖かいクリストフの手が、冷たい僕の肌を滑りそのまま頬へと持っていかれる。顎をゆっくり上へむかされクリストフと視線が合えば力が勝手に抜ける。もともと、そんな力は残っていなかったが。 何をする気か、クリストフは手を伸ばし僕の両方の瞼を手で覆う。抵抗しようにもあまり力が無い僕は、クリストフの成すがまま身を任せるしか術は無いのだ。 「イヴェール……大丈夫さ。安心すると良い……ただ君は私の命令に従うだけ、大人しくすれば良いだけさ」 「………………」 「……分かったね? そうだな、君は私の性玩具として称される奴隷だ……分かったのなら、そっと返事をしなさい」 「Oui.Monsieur Christophe...」 今まで操られていたマリオネットが突然糸が切れて壊れたように、其処から僕の意識は静寂の闇の深い底へと沈んでしまった。 →Next |