君は気付かない、秘めた感情



「おーいっ、メルヒェーン!」
「……メル、」
「そんな井戸に居ないでさ、僕達三人で遊ぼうよ。エリーザが待ってるよ?」
「いや……私、は……」
「メルーっ、メルヒェンはまだなの? テレーゼお母様のお茶菓子が食べれないわっ」
「えっ、母上のミルフィーユ!? あわわ……待っててエリーザ! ね、メルヒェンも行こうよっ」
「……い、いや……行かないっ……メル、君達で彼女の所に行くと良い……よ」
「そう? じゃあ、屋敷で待ってるから。遊びたくなったらおいでよ!」
「……あ、ああ……有難う」


 ――井戸から離れていく彼の姿に、酷く胸が傷んだ。
 愛らしい顔、美しい銀髪、宝石の様な赤い瞳に光だとしたら純粋で無邪気な笑顔、何もかもが完全な彼と、死人の様な顔に白髪に染まりつつある黒髪、濁り腐った白い瞳、闇だとしたら不純で歪んだ感情の自分。
 何もかもが不完全な自分と比べたら、光に満ちた彼の共に居ようなど、腐った愚考にしか過ぎなかった。

(……駄目、だ。メルが……メルが居るから……っ)

 メルがこの井戸にやっくる度に襲ってくる見えない敵。五月蠅い鼓動。欲望を求めそうで怖くなる感情。
 彼を愛したいと思ってしまいそうで、つい誘いを断ってしまった。
 彼にはエリーザベトと云う愛らしく、また光を持った彼女が居る。幸福を望んでいるであろう二人の間に、不幸の基となる自分が割り込む勇気など私には無かった。
 メルがエリーザベトと結ばれているのは解っている。今更、抑えきれない感情をぶつけたって、振り向いてもらえないのだから。
 闇の世界を生きる自分と、光の世界を生きる彼達と比べれば自分は失われた存在として当然。
 光には光、闇には闇と云う様に、その立場に合った場所へと存在しなければ、最大のタブーになってしまうのだから。

 だから私は彼達の元へは近寄れない。
 永遠に、破滅するまでこの井戸で闇に閉じ込められたまま。

「――っは……はぁ、はぁっ……はぁっ、く……っ」

 息が苦しい。言葉にならぬ想いの所為で泣きたい衝動に駆られ、涙を流さない様に喉を絞めても、溢れそうになる涙は我慢と云う言葉を知らない。口に出したくても、どうしても云い出せない自分がもどかしい。

 それならばいっそ、想いを伝えられたら楽になる筈なのに。けれど、この懐かしくも苦痛な感情を自分だけに秘めているのだから、彼は――私に気付きやしないだろう。

 ああ、何時になったら気付いてくれるのだろうか?


 その答えが見付かるその刻まで、私は井戸の中で泣き続けよう。
 愛する人に想いを秘めて。





(彼と出会わなければ苦しまず済んだのに)





end.




切なめなメルメルを書いてみたり。
無邪気で子供らしいメルツだけど純粋にエリーザベトを愛してるメルツに、片想いなメルヒェンが一人で井戸の中で泣いてたらな、という妄想でした。



お粗末様でした。





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あきゅろす。