「――ネェ、メルヒェン。何故何時マデソンナ、同ジ薔薇ヲ触ッテルノ?」
「ん……? エリーゼか……」

 気が付けば、メルヒェンは何時も井戸を包む様に咲いている薔薇ばかり手にしていた。
 その薔薇は井戸の元で、真っ赤に美しくそれでいて綺麗だけども、刻節血の様に見える時があるしそのまま白かった筈の薔薇に、人間の鮮血に染められた風に見える時がある。一見は只の薔薇なのに、最近薔薇の事ばかり気にしているメルヒェンが目の前に居た。
 メルヒェンは薔薇を手に、たまに匂いを嗅いだり眺めたり、宥める様な手つきで触っていたりするけど、それはほぼ毎日と云える程、薔薇相手に喋ったり井戸の其処にある水を薔薇達にあげたりしているのだ。
 おかげさまで此処の所は、井戸の周りに集まる薔薇達ばかり気にして私にはあまり構ってくれないし、前は常に抱っこしてくれていたのに。
 ねぇ、凄くつまんないわ。

「タカガ薔薇相手ニ、話掛ケタリシテ何ガ楽シイノ?」
「楽しい? ……何がだい、エリーゼ」
「ダッテ最近何時モソウ。メルヒェンッテバ、薔薇バッカリ!」

 飽き飽きしちゃうわ、と皮肉混じりにはき捨てる。
 ――私だってメルヒェンには構って貰いたい。そんな寿命の短い薔薇ごときよりも、以前はずっと愛してくれていたから、こんな薔薇なんかよりは負ける事は無いと信じていたのに。
 何時から構ってくれなくなったのかしら? 全く記憶になくってよ。
 でも、何時までも薔薇に構われてしまう事が哀しくなってゆくのは何故だろうか。人形なのに。自分は、メルヒェンに動かして貰わなければ動けない哀れな人形。
 愛される薔薇が、憎ましかった。

「エリーゼ、」
「……何? メルヒェン」
「見てごらん……この薔薇を。エリーゼ……薔薇と云うものはだね、君が思う楽しいじゃなくて――泣いているんだよ」

 泣いている? 花ごときが?

「薔薇ガ泣ク筈ナイワ。薔薇ハ動カナイモノ。メルヒェン、頭オカシインジャナイノ?」
「そんな事は無いさ。ほら、この薔薇の此処とか……腐りかけているのが分かるだろう、エリーゼ?」
「――――ァ、」
「……苦しい、苦しいと嘆いているんだよ。黒き病に侵されて死んだ馬鹿な人間共より、長く……今までの時間を生きて……苦しんで」

 そうやって薔薇の感情になって苦しそうにメルヒェンは呟いた。薔薇を見てみると、その指された部分は確かに腐りかけていて黒く染まっていた。メルヒェンは、何事かその薔薇を井戸から離れた所へ投げ捨てる。
 すると薔薇は、おかしい事にまるで人間が殺された様に、井戸から離れた地面に落ちると直ぐ枯れて完全に腐ってしまった。よく見れば、その薔薇もまた、黒い病気に侵された死に方をしていた。
 本当に、生きていたみたいに。
 メルヒェンは薔薇に視線を向けたまま私の身体を胸元へ抱き抱える。広いメルヒェンの胸元は心地好くて、久し振りなメルヒェンの感触に触れた気がした。

「……あの薔薇は投げ捨てた瞬間……に直ぐ腐ってしまったね。この井戸に依存していた薔薇かな。私には“嫌だ、死にたくない”と泣き叫ぶ様に聞こえてきたよ」
「……ソウネ」
「だが、私とエリーゼとは薔薇なんか世界が違う……それもまた、一つの童話さ」
「……ジャア……ジャア、メルヒェンハ苦シンダ事ナ無イノ?」

 メルヒェンを見上げて問い掛ける。でもその質問は、本当はしてはならない事を知っていた。
 私は何時もメルヒェンの側に居る。だから、すぎてゆく時間の中で、嫌と云う程メルヒェンの苦しむ姿を見てきた――

 例えば、メルと一緒に居るときなんて。
 何時も、苦しそうに哀しそうなカオをして、メルを見つめていたから。

「……エリーゼ。私に苦しい事なんて無いのを知っているだろう?」
「ウン……デモ、一応聞イテミタダケ。気ニシナイデ」
「…………そうか」


 小さく呟いたメルヒェンの表情は、凄く哀しそうなカオをしていた。


薔薇に苦痛なんて

(ずっと傍に居るだけ、孤独と云う毒に苦しむのは私)


end.





アンケからエリメル。
お粗末様でした……


お持ち帰りはご自由に。





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