残酷な詩でさえ貴方の為、僕は歌う。この愛が、僕の声が、貴方の心に届くまで、深い眠りへ誘う闇と最期までと。 “もう一度やり直せるのなら、もっと上手に生きられたら良かったんだがね……” 彼が最後に告げたのがその一言だった。彼は優しいあの瞳を閉ざしたままでぐっすり眠っている。死という闇の中で、僕は彼の冷めた身体を抱き締め、彼の茶色い焔が消えてゆくのを唯眺めていた。 最初は勢いがあって燃えていた筈なのに、物心が付いたときは段々と消えてゆくのが解った。謂わばつまり、彼の意識は完全に死へ近付いていると云う意味なのだ、と。 だが改めて彼の寝顔を見てみれば、今にも動きそうだった。それならば、いっそ目が醒めてしまえば良いのに。彼が眠りはじめて、僕が彼の身体を抱き締め続けてから、ずっと離さない様に抱き締めたままその場から動かなかった。 そういえばもう何日たったんだろう。現実では一週間か、それとも二週間近くだろうか。或いは一ヶ月だろうか? それまでずっと、僕は彼の傍に居続けた。 “ずっと愛してる”何度も、何度も、そう囁いて。 ねぇ、何故? 貴方は僕の詩を聞いてくれなくなったの? ねぇ、何故? 僕の方を見てくれなくなったの? ねぇ、何故? そんな表情で深い闇に溺れようとするの? ねぇ、何故? あんなにも愛し合っていたじゃないか。 何時から、貴方は一人で闇に囚われようとするのだろうか。寂しさも哀しみも全て一人で抱え込み、ついには永遠の闇に抱かれてしまった。 ねぇ、貴方の瞳の奥にはどんな光景が広がっているのだろう。きっと、闇だけでは無いはずなのだから。 それは美しい幻想と云う名の緋い世界だろうか? それは物語に縛られた黒い歴史の世界だろうか? それは悪夢の様な鐘が鳴り響く銀色の輪廻だろうか? それは記憶を喪失した水底に沈んだ世界だろうか? それは楽園と見せ掛けた奈落の悲劇の世界だろうか? それは緋き悪魔が操った聖戦の歴史を綴る世界だろうか? それは運命の犠牲に弔った奴隷達が嘆いた世界だろうか? それは愛と憎悪を描いた復讐劇の童話の世界だろうか? それとも――彼女が捕えた悪夢と云う幻想の“Reloaded”だろうか? どのみち貴方はこれ以上目醒める事は無い。永遠の闇に抱かれてしまったからには、最早届かぬ何処へ逝ったのだから。 今も尚、彼女の幻想はめぐり続けるだろう。貴方が現実から逃げたとしても、殺すまで……彼女の手に奪われるまで、彼女は手にいれようと追い掛け続ける――。 それでも、僕は歌い続けるよ。 残酷な詩でさえ貴方の為、僕は歌う。この愛が、僕の声が、貴方の心に届くまで、深い眠りへ誘う闇と最期まで。 彼女のReloadedに終わりを告げることは無い。 同時に、彼女のReloadedは終焉を迎えるだろう。 「さよなら……僕の――サヴァン」 end. |