「じ、じまんぐが……悪いんだぞ……」 片手に握りこぶしをわなわなと震わせ、腹せいに小さな呟きを零した可愛い王様の声には怒りが含まれていた。 「はいはい……それにしてもまぁRevo様のビンタは力が強烈な事で……」 「馬鹿か! お前がいきなりキスしてくるからだろ、びっくりしたじゃないか! このっばかんぐ!!」 「え……ちょ、ばかんぐって何っすか!?」 はたから見れば夫婦喧嘩にも見え無くはない言い合いも、二人で居る時は日常茶飯事。変わっている事と云えば、ファンの前では何時もクールで冷静を保っているけれど、俺の前では少し我が儘で強気になる事だ。 しかしそんな素直に慣れない王様も、事情によっては人が変わってしまったかの様に、甘えたがりにもなるのだ。それなら普段でも、俺の前でたまには素直になって甘えてくれれば良いのに、とつくづく思った。 どうやらこの可愛い王様は、自分のプライドを崩すには難しいらしい。 けれど、昨晩ヤったばかりであろうとも、そんな王様の唇を王子様気取りで奪おうとした俺にも原因はあるのだが。王様の唇に触れた途端、まるでRevoちゃんが覚醒したように飛び起きては、俺の頬を思い切りビンタしてきたのだ。 お陰で頬には赤い跡。よよよと嘆きながら(いや演技だけど)ひりひりと辛い痛みに頬を擦りつつ、自嘲する。その間にもRevoちゃんは犬の様にきゃんきゃんと怒鳴りまくった。 「――大体なぁじまんぐ! お前は何時もいきなり過ぎて僕の心臓に悪いんだよ!」 「でも俺は冷静だよーRevoちゃん。Revoちゃんこそ、何時もつんつんしててつまらないよ?」 「何処が冷静だっ……僕の事を馬鹿にして子供扱いしてる言い方だし!」 「あら、もしかして照れ隠しのつもりかなRevoちゃん?」 「う、五月蠅い!」 顔を真っ赤にして叫ぶ可愛い王様。舌足らずな所とか中々言葉を口に出せないのも一つの可愛いさだけれど、たまには甘えてきても良いのではないのだろうか。 と云っても、どうせ素直じゃないRevoちゃんの事だ。普通に甘えてくれ、なんて云ったら拗ねて怒ってしまうんだろうね。 「はいはい、Revoちゃんっ」 「…………黙れ、胡散臭い無精髭男めが」 「何時まで拗ねちゃってるのよ王様。相変わらずの我が儘でいると、この宰相も王様がおいたわしく存じますぞー?」 「うわッ何この人うざい」 「う、うざ……!? ああぁついにRevoちゃんが反抗期になって……!」 そんなやりとりを繰り返すも、改めてRevoちゃんの表情を見てみれば少し嬉しそうなのに。 幾らプライドとは云え、思うがままに甘える事が出来ないRevoちゃんを可哀想だと思ってしまうのは、何故なんだろうか。 しかし、普通な状態でRevoちゃんを甘えさせるにしろ、何が彼の中で留められているのか――どちらにせよ、他人の俺に心境を変えさせるのは無駄だと分かっているが、本当の所はよく分からない……。 「まぁともかくさ……Revoちゃん」 「……何」 「そんな何時までも素直になる事を溜めておくと、後で後悔しちゃう事になるよ?」 「…………」 「んー取り敢えず……俺は用があるから仕事に行くけど、何かあったら電話して頂戴な」 朝からずっとベッドに居るのも諦め、Revoちゃんから離れるように立ち上がる。それに仕事の時間も早く、出来るだけ遅刻を避けたかった為に準備を着々と進めだす。時間を確認しつつも用意が出来た頃に、振り向き様にRevoちゃんへそう告げると―― (…………あれ?) ふと見えた寂しげな表情。しかしまた敢えて見れば、その表情は消え去っていて、Revoちゃんはどうやら本当に拗ねてしまったらしく、白いシーツの布団に包まって寝転がっていた。 「…………まぁ良いか」 * ――気が付けば、もう時間は夜中に等しかった。 「うわ……どうしよ、Revoちゃんったら暇でくたびれてそうだろうな……」 本当はラジオ番組の収録で、あのはるかちゃんとのトークで終わらせる筈だったけれど、その後のスタッフからの飲み会の誘いが断れず、こんな夜更けになってしまった。 昼にホテルを出ていってからあの後、一向にRevoちゃんから連絡は掛かってきて居ない。多分暇だったが故にホテルで寛いでいたり、何か歌詞を書いていたりしているんだろうけど、今は夜中だ。昼から夜中までつまらない時間を過ごしていたに違いない。 だがRevoちゃんの事だ、どうせ今帰っても寝ているんだろう。でも、もしかしたら俺を待ちわびていて扉を開けたら抱き付いてくる――なんて、 「何考えてんだろ俺……」 タクシーを降りてから直ぐホテルの受付を終え、そのままエレベーターまで駆け込みRevoちゃんの居る部屋まで着くのを待つ。動き出したエレベーターの感覚を無意識に味わいつつ、そんな無駄な妄想に――強気なRevoちゃんに、容易く甘えてくるなんて無いだろう――深い溜め息を着いた。 「……うう、Revoちゃんったら」 暫くすればエレベーターは止まり、其処がRevoちゃんが待つ部屋の階だと云う事を知らせる。開く扉の間をすり抜ける様に身を滑らせれば、その階の奥にある目的地まで軽く駆け出す。一目散に辿り着いた部屋の扉を開けば―― 「遅い。ばかじま」 華奢な裸体を覆うベッドの薄いシーツを纏ったRevoちゃんが、部屋の廊下で仁王立ちで待っていた。 「え……えっ、れ、ぼちゃん? 寝てなかったの……!?」 「…………仕置きだ」 「うわっ、うわうわうわ……Revoちゃ――って、ちょ、待って危なッ……!」 つかつかつかと今にもはだけそうなシーツを支えたまま、Revoちゃんは怒りに満ちた表情で詰め寄ってくる。Revoちゃんの勢いに圧倒され後ずざりつつ、部屋までぐいぐい導かれると、強い力でベッドへ押し倒されてしまった。ましてかRevoちゃんの方が身長高い所為で、到底力が適う筈も無く。 だがRevoちゃんの様子は違った。俯いて表情が隠れている所為で解らないが、か弱い動物みたいに震えていたのだ。シーツをそこらに放り捨て、曝け出された裸体をふるふる、と。 こんな形を体験するのは思えば初めてだった。 「れ、Revoちゃん! そんな裸だと風邪引――」 「……黙れ。こんな夜中まで……僕がどんな、想いで、待ってたのか知らないクセに……っ」 「Revoちゃん……?」 「……っじまの、馬鹿が……! ずっと、じまんぐが帰ってくるまでっ……一人でえっちしてたり、泣いたりしてっ……寂しかったんだぞ……!!」 意外だった。あの強気で素直な王様が、こんな事を云いだすなんて。 驚きを隠せないあまり、目を見開いたままRevoちゃんを見据えていると、Revoちゃんは俺に抱き付き、涙ぐんだ瞳で胸元に擦り寄ってきた。背中に回した腕も震え、だがその振動には「甘えたい」感がしっかりと伝わってきた。 「んっ、ん、んっ……!」 「Revoちゃん、そんな必至に擦り寄って来なくても……」 「五月蠅、いっ……! っ……ん、んっ、んっ……じま、好きっ……じまんぐ、大好き……っ」 何だこの可愛いさは。とにかく今、この喜びは何と表現したら良いのだろう――ただでさえ甘えるのが苦手なRevoちゃんだと云うのに、必至に火照った頬で、まるで愛おしそうに胸元を確かめるべくぎこちない動きでありながら擦り合わせている。その様だけでも、Revoちゃんにとって精一杯の愛なのだろうが、俺には凄く嬉しい感情が込み上げてくるのが分かった。 Revoちゃんが今まで素直に慣れなかったのは、単に恥ずかしからったからか、それとも――この状況になるのを待っていたのか。どちらにせよ甘えてくれるだけで十分だ。 何て可愛い王様な事か。 「――Revoちゃん」 「は……っ、じまんぐ、大好きだから……一人に、しないで、くれ」 「Revoちゃん、」 「お願い……っ、じまんぐ」 「……大丈夫。大丈夫だよRevoちゃん。こんな遅くなって御免ね、俺も好きだよ、Revoちゃん」 「……っ、うん、大好き……」 不意にRevoちゃんの唇が俺の唇にやんわりと重なる。名残惜しさも何でもなく数秒してから唇を離すと、Revoちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべた。 そんな甘えたがりなRevoちゃんを、今までよりも強く抱き締める。温かい体温が、余計に嬉しさを強める事にはそう気付かずには居られなかった。 「愛してるっ……じ、じまんぐ……」 あまりにも可愛いさに、今なら空を飛べそうな気がした。 end. 4400.4700のキリ番を踏んで下さった音無氷蓮様へキリリク。 リクエストの内容と何か違ってる感じっぽいですね。すみません。 ※音無氷蓮様のみお持ち帰り可。 |