「エレフって、その髪 綺麗だね」 にこにこと、無垢な笑みを浮かべて嬉しそうにイヴェールが告げた。 特に理由は無く、純粋な程に青い空を紫水晶の瞳に映して、緑の豊かな野原に寝転がるエレフセウスの、赤紫色のメッシュが入った銀髪が、穏やかな風に吹かれて揺れるのを見て興味が湧いたらしい。 エレフセウスは、暫く空を眺めていてぼんやりしていたが、ふとイヴェールが言葉を投げ掛けてきた事に、「ん?」と眉を上げて漸く気付いた。 「……そうか?」 「うん。きらきらしてて綺麗だよ、僕と違って髪がさらさらしてる。何で梳かしてるの?」 「んー特に何も……つか梳かすもん無いし、髪がこうなってるだけさ」 「ふぅん……」 興味が無い様に答えを返すエレフセウスに、イヴェールは緩く首を傾げる。しかしエレフセウスの髪質の良さに、何処か心地好さを感じたらしく、何度も何度もさらさらと指で絡めていく。 「風が気持ち良いね、エレフはこんな場所初めてかい?」 「いや……? そういえば小さい頃、こんな野原で妹と遊んだ事がある気がする……ミーシャって云う名前の妹とな」 「そうなんだ。でもそのミーシャは何故エレフの所に居ないの?」 「……さぁなー、今頃ミーシャはどうしてるんだか。小さい頃に別れて以来、全くミーシャと会ってないんだ」 「別れてって?」 「色々あったんだよ。……ま、あんまり覚えてないけど、知りたいんなら冥王にでも聞けよ」 エレフセウスの、ぼんやりとゆっくりした口調は、思い出を語る様かと思いきやイヴェールには少し寂しげに思えた。自分の身内が居なくなると云う寂しさを、イヴェールはただ永遠に会いも出来ぬ母親しか知らなかったから、そんな寂しさなんて解らないのだ。けれど、エレフセウスを見つめていると、そんな感覚を覚えるにしろ感じてしまう。 イヴェールはエレフセウスの言葉を耳に傾け、はたから見ればあんまり聞いていない様な体勢だった。エレフセウスの髪に夢中なのか、心地好い感触をもたらす髪質を楽しんでいた。 エレフセウスは口を閉じる。今までの人生の中でもまるでお伽噺の様な昔話をしても、今思えば黒歴史でしかない過去には、どうでもいい事だとエレフセウスは諦めた。 ふと話題を変えようとエレフセウスは身体を起こす。野原の地面に座っているイヴェールと隣になれば、首を傾げた。 「何、お前、そんなに俺の髪触って楽しいか?」 「うん、何時までも触っていたいなぁーなんて」 「そんな事云うなら、俺もイヴェールの髪触っていいか?」 「ふふ、触りっこだね」 再びイヴェールの表情に嬉しそうな笑みが浮かべられた。エレフセウスはまぁいいか、と溜め息を吐いた後、イヴェールの柔らかい髪に手を伸ばす。 手と手が触れ合った瞬間の魔法。 それは優しさと穏やかさに全てを染めてくれる魔法だった。 「イヴェールの髪も気持ち良いよ」 「そう? 有難うエレフ」 「礼を云う程でも無くないか?」 「はは、そうかなぁ」 「いやそうだって」 髪を触るって、僕達の距離を近付ける事なんだね。 end. 地平線を飛び越えてエレフとイヴェールはほのぼのコンビ。 有りだと思って。 |