信じられない現実に、思わず声を失った。あの身体の弱く華奢な肉体を持つ幼い陛下に、秘められたその力なんて知る由も無い。
 誰にも知られなかった陛下の事で頭がいっぱいであるのに、只でさえ色々な出来事に脳が膨らんでいる所為で、現実を見たく無い不信感に罪悪を感じた。けれど、この男が云うに当たって正解も間違いも解らない。幾ら問いかけたって、答えを得られないのを知っているにも関わらず、俺は陛下を助ける事だけに精一杯だった。
 今でも忘れられない陛下の悲痛な表情が、脳裏に浮かぶたび胸が締め付けられ、握りこぶしに力が籠もるのを感じた。こんなにも悔しさに耐えられなかったのは初めてだったかもしれない。
 それにしても、この男が云う陛下の力って何なのだろうか――

「……ノア様、準備が整いました」
「よし、ご苦労だったね」

 ――準備…………?

「おいで、被験体“Cancellarius”」

 男達が居る扉の元に現れたのは、他の部下なのだろうか。何やら小さく呟いた声で、準備と云う言葉が、もしや陛下に何かと不安を不意に思い出してしまう。ノアと云う男は、意味深げに口元に笑みを讃えると俺に向かって手招きをする。与えられた“宰相”の名を呼ばれてあまり良い気がしなかったが、近くに居たノアの部下が首輪を強く引いた所為で無理矢理立たされると、背後から押される。
 足枷が邪魔をしているからあまり身動き出来ないが、今は我慢すべき事。そう、暫くしたらまた陛下に会えるかも知れない、と叶うか分からない願いを抱いていた。

 男達に導かれるがまま、暗い大理石の狭い廊下を進んでいく。ひんやりと床の冷たい感触が足の裏へリアルに伝わってきて、背筋がぞくぞくして止まなかった。
 しかし、暫く何もないでただ無言のままに進んでいくと、何やら実験室の様な狭い様で広い室内に出てきた。室内の、真ん中にはどうやら部屋の奥へ行く事を拒むようで透明な大きい硝子がはっていた。触って叩いてみても、全くびくともしない様子であろう硝子は、溶かさない限り壊れない性質の様だ。

「……ここで、何をする気なんだ……?」
「ふっ、そう怖がる事は無いよ被験体、Cancellarius……見せたいものがあると云っただろう? 安心したまえ……」
「…………」

 ノアは、数人部下達をこの部屋に残して、後の部下を連れて室内から出ていく――嫌な冷や汗と胸のざわめきが五月蠅くて、歯を食い縛った。共に、何をする気なのは分からない恐怖感で落ち着く気がしない。

(……陛下、俺の……陛下)

 早く、俺の陛下に逢いたい。必ず護ると誓った陛下を助けてやれなかった悔しさが、余計に自分の腹を立たせていた。
 これ以上、泣き叫ぶ陛下が見たくなかったから――
 儚くも、こんな運命だとしたらどれだけ残酷な事なのだろう。
 絶対に助けてあげるから、陛下…………

「始めるぞ、先ずは服だ」
「承知致しました」
「……? な、何だ……!?」

 部下の一人が不意に指を鳴らしたと同時、他の部下が動き出す。突然の事態に訳が解らず、挙動不審が故に部下達を見渡して顔を上げた途端、身体を床に押さえ付けられる。
 そのまま、部下の一人が小さなナイフで俺の服を切り裂いた。

「――――ッ!」

 切り裂いた服の切り込みに男の手が潜り込む。服の下には下着も着て居なかったからか、不毛にも男の浅黒い指先が胸板の小さな飾りを摘み上げた。ほんの僅かな痛みに背筋がびくつく。

「っ、あ……!」
「……ふん、胸だけで感じたらしいな。そのままヤってしまえ、後にノア様も用意するだろう」
「はっ。……では、この被験体は今だけ俺達の玩具と云う事ですね」
「くく……遊べるなんてなぁ」
「あ……あ、あ……! や、ゃッ、止めろ……ッん、ぅっく……!」

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