――昔々、ある国に。挙動不審な国王と、冷酷非道な宰相がおりました。 宰相は、挙動不審な国王に対してはとても忠実でした。 国王の命令ならば何でも聞き受け、一人二人足らず殺したとさえも、自分を犠牲に罪を犯したとしても、国王を愛しておりました。 国王もまた、そんな宰相を凄く気に入っておりました。 住民達や他の国の人々との交際も、国王は人付き合いが上手くいかず、接触するのさえも拒んでいたのです。 けれど、大好きな宰相が居たから今のままなのですけれども。 しかし、ある日の事。 “じまんぐ” 国王が宰相の名を呼んだとき、宰相の心情は狂いだします。 “お前はもう良い。僕の前から現れるな……話掛けるな……” 唐突な、冷たいお言葉でした。宰相を恐れているような、怯え、震えた声でした。 そんな一言の言葉で、宰相は何を思ったのでしょう。冷酷非道な性格でも、どれだけ傷ついたのでしょうか。しかし、国王は挙動不審な性格が引き金だったのか、ついには宰相にも、人の前に出るのを拒み始めたのです。 そして宰相は思いました。 “嗚呼……ならば……陛下を……今更……監禁……俺のモノに……すれば……” 震えた国王を足元に、宰相の中では、良からぬ歪な愛が膨らんでいき、震えた国王を見つめて云いました―― 「――何て、Revoちゃんはどう思う?」 ブーツの堅い靴底が、冷たく広いチェックの床に触れるたび、嫌な程リアルに乾いた足音が壁に反射して響いた。一見、尋ねている言葉である筈にも関わらず、その口調は淡々としていて、何よりも低い音程だった。 「――酷い話だよねェ……」 宰相と呼ばれていた男、じまんぐはため息混じりに呟いたのち、床に伏せたかつての国王を見下ろす。 そんなじまんぐの手元には、ぼろぼろの長いロープ。同じく足元には、細く白い布で口元を塞ぎ、横たわったまま見上げている顔に身動き取れない不自由な身体。背中に回され拘束された両腕、Revoと呼ばれた男は、じまんぐの言葉に過剰反応に身体をびくつかせた。 涙を多量に溢れさせたRevoの瞳は、確実に恐怖感に怯え、がたがたと震えていた。 「宰相はあんなに忠実で……凄く愛していたのに。急に“話掛けるな”……だって」 じまんぐが少しずつ床に伏せたRevoに近づいてゆく。Revoは我に返り、そして狂った様に首を横にふってじまんぐから逃げようとするが、繋がれた鎖の足枷がそれを拒んだ。繋ぎ止められたからには、小さな小鳥は逃げ切れない。 「ねぇ、どう? Revoちゃん」 しまいには、Revoはじまんぐに肩を掴まれてしまう。その時のRevoの表情は、絶望混じりの恐怖を目にしたように目を見開かせ、それは誰もが幼い子供にも見えた。誰もが、と云っても此処には一度も部外者ははいれないのだが。Revoはじまんぐの問い掛けに震え、くしゃりと表情を歪ませゆっくりと首を振った。じまんぐは深く眉を潜め、そのままRevoの横たわった腹をめがけて勢い良く蹴り上げた。Revoはあまりの痛さに塞がれた口で、酷くむせこんだ。息を吸う際に布が口の中側に寄る所為か、息が詰まってしまう。 「んぶっ……ぐ……!!」 「俺はね、Revoちゃんを“すごく愛して”あげたんだよ?」 じまんぐの音程が一段と低くなる。瞬時に替わる穏やかな様な表情とは裏腹に、声だけがRevoの精神を追い詰めてる様で、口を塞がれているRevoには何も言い返す言葉が無かった。 それでもRevoはじまんぐを愛していたが、今となってこんな関係になってしまった事には、後戻り出来ないのだとRevoも知っていた。 こんな性格になったのも、自分自身のひ弱さからも。 「……あの時云った言葉、覚えてる? そう――“ずっと一緒に居よう”だったねェ」 そっとじまんぐがRevoの身体の側から離れる。Revoは黙ったまま見上げていたが、じまんぐは数歩だけ歩くと顔だけ振り向いた。 意味深な暗い微笑みを被せて。 Revoは何度も頷き、じまんぐの問い掛けに応えたが、けれどじまんぐが解ってくれる筈も無いのだけれども。 「あの言葉を云いだしたのはRevoちゃん。それをRevoちゃんの為に、馬鹿な程に従ったのは俺……」 ――どっちが悪いんだろうねェ。 「Revoちゃん?」 ――君が悪いんだよ。 「…………ッ!!」 「ハハハハっ……」 じまんぐの笑い声は何処か不気味で、Revoは思わず背筋をぞくり、と寒気が走るのを感じた。目を見開いた先に見たものに、優しいじまんぐは既に居なくなっていた。 目の前にいるのは、狂喜に歪な愛を覚えてしまったじまんぐだけ。優しさの欠片もなく、絶望的な夢を見せられているからなのか。 どちらにせよ後悔は出来ないから。 「――だってRevoちゃん、全ては快楽があれば生きていけるものね。今までも、快楽の為に俺を使っていたんでしょ?」 「……っ!! ん、ん゙んっ!」 「じゃあ、好きなだけイかせてあげる」 その言葉を告げ、じまんぐは自らの口に自分の指を二本加えて、唾液を絡める。その間に、ロープを辺りに捨て、器用に空いていた手でRevoの着るズボンを、秘部が見える辺りまで脱がせば、唾液を絡ませた指二本を慣らしてもいない秘部に突き立てた。 「ん゙ぐっ――――!!」 「痛い? そんな訳無いよねぇ」 「ん゙っ……ん、んんぅ!」 「三本はどうだろうね……でもRevoちゃんなら悦ぶんでしょ?」 半ば興味有りげに笑いながらも、胎内(ナカ)を掻き混ぜる様にして動く指。三本に増やしてから時節、その長い指先が前立腺を掠めた感覚に、Revoの身体が微か戦慄いた。 「ん゙っゔ……ッ!」 「あれ……まさかこれだけでイった、なんて云わないよね?」 「……ん――!」 「答えろ、Revo」 普段聞かない命令口調に、当然、力無い状態で手が適う筈も無く。じまんぐはRevoの口元に当てられた布をずらし、口を解放すれば待ち侘びた部屋の空気を求めRevoは深く息を吸った。 しかし真っ先に動く指は、そう簡単に暇を与えてくれず容赦無く奥を突き上げた。 「うあぁッ! や……やだっ、じま、じまんぐっ……こわ、いっ!」 「恐い……か。でもねRevoちゃん。君の罪は俺からの罰だから――」 「な、んで……こ、んなっ、事……止め……じまんぐ……!!」 「大丈夫。これからは俺がRevoちゃんを愛してあげるから、ね」 冷笑うどんな想いじまんぐの表情は、その先はRevoのみぞ知る事になっただろう―― 「それまでは、俺の玩具で居てね? Revoちゃん――」 「いっ……嫌、だ……嫌だ……嫌だじまんぐっ……!!」 そして、その部屋から聞こえたのは、悦びと恐怖に失望した陛下の声が最後だった。 end. |