赤い色をしたワインの様に、自分の幸福がどれだけ波乱万丈な人生だったか。


 開いた窓から、ふわりと室内に舞う雨上がりの風の匂いが、自分の存在を気付かせる様に、お気に入りの葡萄酒を口に呑んでいた僕の鼻を擽らせた。
 黄昏の雨に濡れた都会のアスファルトからの、何とも言えない様な良い匂いは実に、僕の沈んでいた気分を明るく変える。一方で雨が止めなく降っていたからか、憂鬱な気分を晴らせたのは都合が良かった。
 しかし一つだけ、僕の心の中にはもやもやとした何かが晴れず、むず痒い感覚に気を逸らしそうな気がした。そんな中で、僕が座るソファーの背後からあの男の声が、気を紛らわす様にして投げ掛けられた。
 音楽団員の中でも、結構前から世話になっている男ことじまんぐだ。僕は肩ごしに顔だけ彼に向けると、じまんぐの手には九州向けの地図帳らしき本を持っていた。

「Revoちゃん、今度 福岡の海行こうよ。息抜きにさ」
「……海?」
「そ。この前福岡のライブに行った時に二人で寄ったでしょ?」

 ああ、以前のか。内心で軽く思い出しつつ苦笑を浮かべ僕は軽く相槌だけで返した。
 福岡のライブの帰りに、他の楽団員には内密でこっそりと行った福岡の海。夜だったからか、都会の夜景がぼやけて写し出された海は本当に綺麗だった事を、サングラスに隠れた自分の瞳の裏に思い出す。
 僕が座っているソファーの背後から、覆いかぶさるようにして身を乗り出してきたじまんぐは、片手で本をぶらぶらさせてにっ、と笑みを浮かべた。

 だが不本意ながらも、僕は胸が締め付けられる様な感覚を感じてしまった。

(…………っ)

 思ってはならない感情に恐くなって、思わず息をのむ。
 赤くなった頬を隠そうと顔を逸らしても、それは余計に相手を心配させて逆効果になってしまう。

「Revoちゃん?」
「っ!」

 肩に置かれた手が、緩く熱を帯びていて暖かい。想いたくも無いのに、同時に胸が無駄に鼓動を脈だって五月蠅い程に高鳴っていた。じまんぐは凄く心配そうに表情を顰めて、僕の身体を支えていた。

「少し顔が赤いよRevoちゃん……! 熱? 熱だったらどうしようか、また今度にする?」
「じ、じ……まんぐ、違う、違うんだ……」

 止めてくれ、これ以上僕の気を惹かせないでくれ。けれど離れ無いで欲しい、ずっと傍に居て欲しい、その口で、僕の唇を強く深く貪って欲しい――良からぬ欲望が強くなって、気が狂いそうだ。
 だが、そんな事云ったら、同姓だからって気持ち悪いと離れてしまうだろう。それだけは、せめて避けたかったのに。

「ぼ、ぼ……く」
「Revo……ちゃん? 本当に大丈夫!? 無理しない方が……!」
「違う、違うんだ……!!」

 止めて、云いたくない……それだけは。
 じまんぐだけは――離れて欲しくないのに。身体が云う事を聞かなくて、とうとう口を開いてしまった。
 ああ、せめて告白だけでも、気持ちだけでも、貴方が愛さなくても、僕が凄く凄く愛してあげるから。

「僕……ッ、じまんぐが……好きなんだ。前からっ、好きで……好きで、好きすぎて……!!」

 我が儘でも良い、それで受け入れてくれるなら。
 愚行だと嘲笑っても良い、僕は凄く真面目なんだ。

 純愛な愚行の告白が、したかっただけなんだ。




(寧ろ嫌いだと振ってしまうならば、それでも僕は諦めないから)







end.



初JR小説。切なめ。
Revo→じまんぐみたいな一方通行。








あきゅろす。