※3Z
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冬特有の乾いた匂いはすっかり消えて、代わりに甘い春の香りがする。さらに言えば桜の花の香りだ。しかし、学校へ行く途中の並木道を飾る桜の木には蕾さえ見られないのだからそんなはずはない。ならば自分の鼻を擽る原因は一体何なのだろう。一足早い花粉症だろうか。



その上、腹の辺りに鈍い痛みも感じる。原因が分からない症状程、気味の悪いものはない。若くして病に伏すなんて絶対にごめんだ。電子辞書一つ(これだけあればいいと思う)と筆箱しか入っていない鞄を肩に掛けながら、まだまだ寂しい枝の隙間から覗く青空を見上げた。





「ちっ遅刻するアル!どけどけどけー!」

「あっちょっと神楽ちゃん!それ僕の自転車っ!」

「新八の物は私の物、私の物も私の物、っていうかお前は何一つ物を所有することが許されてないアル。じゃーナ!あばよっ」





閑静な住宅街の方から勢いよく飛び出してきた二つの人影は、あっという間に距離を広げていった。自転車を目にも止まらぬ速さで少年から奪った少女はそもまま鞄を前の荷台へと放り込むと車輪を高速で回転させて去って行った。



「男子高校生が何が悲しくてママチャリ?」

「あっおはようございます沖田さん」





自転車は姉上のお下がりで、などと馬鹿丁寧に説明を始める少年の話は適当に相槌を打ちながら聞き流すことにした。それよりも何処かに早咲きの桜の花がないかと焦点を遠くへと合わせる。



そしてついに見つけられないまま学校の門の前まで来てしまった。何だかすっきりしない気持ちのまま今にも閉じられようとしている正門を通り、生徒達がまばらにいる下駄箱へと向かう途中で急に思い出した。




「美容院で桜のシャンプーが売ってたから買ってみたアル」




高かったけど。そう言いながらも嬉しそうな表情を浮かべる彼女の手には桃色の花弁が五枚散りばめられている透明の容器が握られていた。プラスチック越しには美しい桜色がたっぷりと入っていた。マウンテンゴリラも女になりたいもんなんですねェ。確かそう言った後、間髪いれず腹に蹴りを入れられた。互いの食費節約のために夕飯を共にした昨日のことだった。





「あーすっきりした。」



履き潰した灰色の上履きが砂混じりの床へと落下していく様子はまるでスローモーションを見ているかのようだった。


二つの謎がすっかり解けたことに満足した沖田は大きな欠伸を手で隠そうともせず、ずるずると足を引きずる様にして教室へと向かう。席に着けば再び桜の香を味わうことになるだろうと思うと不思議と足取りは軽くなった。









青い春の不純性



青い春をこれから迎えようとしている二人。





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