※現代パロ
※微裏
幼なじみだった4つ年上の男と数年ぶりの再会を果たした。それは決して意図的なものではなくて、学校帰りにいつもは素通りする駅前の本屋で雑誌をまるごと一冊立ち読みし、痺れた脚を癒してあげようと隣の喫茶店へぶらりと入ったことによる偶然だった。
「相変わらずちっせーな」
そう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でる幼なじみの手も相変わらず大きくて温かかった。昼休みにトイレの鏡で軽く直しただけの髪はいとも容易く乱れる。抗議の声を上げようとするも彼の声の方が先だった。
「おごってやるから少し喋らねェ?」
「タダ飯アルか!?」
「まァそんなもんでさァ」
「きゃっほー!」
「言っとくけど食べ放題じゃねェからな」
でも全然少しじゃなかった。気が付けば喫茶店でカフェラテを5杯もお代わりし、お洒落なイタリアンレストランで制服のまま赤いトマトがてかりと光るマルゲリータピザを頂いた。会計の時にさらりとクレジットカードを出す幼なじみの手が先程自分の頭を撫でてくれた手とは全く別に思えた。カードって何歳から持てるんだろう。仕組みは昨日の経済の授業で習ったような気がするが、始業ベルが鳴ってから10分足らずで眠りについたので理解するには至らなかった。
いつからカード持ち始めたの。そう尋ねようとしたがまたも彼によって遮られた。人通りの少ない、消えかけている街灯が1つだけ照らす道で私の唇は彼の唇によって塞がれていた。腰も抱きしめられていた。
ひゅうひゅうと息を吸う度に喉が音を立てる。乾燥しきってしまっているらしい。気道を被う粘膜の働きを正常な状態に戻してやるために半裸のままキッチンへと向かう。棚の手前から取り出したコップは冷たかった。水を注ぐとそれはさらに冷たさを増した。
昔から全く変わろうとしない体質に今となってはむしろ親しみを感じる。どうしよう。どうすればいい。自分が何をすべきなのか分からなくなった時、窮地に立たされた時、体中の水分が引き潮のように目まぐるしく姿を消していくのだ。体中の粘膜がからからに乾いていってしまうのだ。
今回もそれは変わらなかったみたいだ。いつもと何の違いもないがらんとした自分の家に入ると、扉が閉まるなり沖田からの口づけを全身に受けた。ずるずるとセーラー服で壁を拭いた。
トマトソースの味が口内に染み付いたままかもしれない、若しくはオリーブ油で唇がぬるぬるしているとか。どちらにしろ最悪だ。しかしそんなことはお構いなしに彼の舌が自分の舌を追うものだから、トマトとオリーブのことは気にしないことにした。気にしない。気にしない。気になる。いよいよ沖田の手が制服の赤いスカーフにかかる。するり。どうしよう。彼の胸板を押し返そうと自分の腕が動いた時には、スカーフも下着も全て床に落ちていた。喉はひりひりしていた。
「やっぱり嫌だった?」
すぐに戻ってこない自分に痺れを切らしたらしい。1ミリ後ろに彼の気配を感じる。くすぐったいのを我慢してふるふると首を横に振った。何時からこんなに優しい声を出せるようになったのか。熱を持った沖田の唇が徐々に背中の骨に沿って下りていく。溜息を吐きながらも神楽はされるがままだった。
「ただびっくりしただけアル」
コップを持ったまま、くるりと沖田の方に向き直る。中の液体がぐらりと揺れ、自分の掌とタイルの床を濡らした。私に握られたコップをそっと上から抜きとると、沖田は流し台の横にコップを置いてくれた。そのまま抱き上げられて、湿気が微かに漂ったままの薄暗い部屋のベットの上に下ろされた。ついさっきの戯れでシーツは既に皺くちゃ。そして暫くして沖田を受け入れた自分の粘膜は信じられないくらいに潤っていた。
夜の粘膜
大人だけど抑えるつもりはない大学生と子供なりに頑張ろうとする女子高生。