※一部大人表現
※夜兎兄妹
※現代パロ















大好きなシャーベットを食べると虫歯でも何でもないのに奥歯がきーんと滲みる。そして痛みに耐えるために表情筋を思いっきり凝縮させる。今の私の気持ちはまさにそれだった。不快な気持ちを爆発させないように顔の皺を中心に寄せることで何とか持ちこたえた。


「お邪魔してま―す」

「うちは駆け込み寺じゃないアル」



悪びれた様子を微塵も見せない兄に怒る気力もなくしてしまった。するするとマグマが腹の辺りまで下がっていく。私に残されたのは呆れ返るという気持ちだけだった。それを察したのか兄は革張りのソファーの上で脚を伸ばし始めた。自慢されても思わず許してしまいそうになるくらい長い奴の脚をまじまじと見つめていたら笑われた。


「なに?」

「それはこっちの台詞ネ。久しぶりに顔見せに来たかと思えば…何のつもりアルか」

「暫くお世話になろうかと思って」

「帰れ」


冗談じゃない。憤慨したくなるのを何とか堪える代わりに肩からまだぶらさげていた鞄をソファーへと投げつける。不満そうな声が返ってくると思えば、聞こえてきたのは能天気な声だった。


「神楽って金持ちだったっけ?」


投げた鞄は知らない人が居ればむしろ非常識だとされるレベルの有名な高級ブランドのものだったから兄がそう返事するのもまぁ不自然なことではなかった。



「頑張って昇進してるネ。目指すは正真正銘のキャリアウーマンアル」

「すごいね。俺には絶対無理だよ」

「兄貴は努力もしようとしてないダロ。女の家に入り浸って遊んでるだけネ」

「しょうがないだろ。俺はお前と違って容姿しか取り柄がないんだから」

「あと喧嘩強いとこぐらい」


喧嘩が強くても今の世の中生きていけないヨと言いかけて口を噤んだ。このご時世、必要なのは頭脳か技術か金なのだ。容姿がいいからとか、力が強いだけではとてもじゃないけど上手く世渡りなんか出来っこない。そのことをこの男はちゃんと理解しているのだろうか。女の世話になりながら、ちゃらんぽらんのまま生きていけるのは長くても後数年の話だけだということを。


もうすぐ目の前まで期限は迫ってる。それまでに何とかしなきゃ、兄貴、生きていけないんだよ。そう心の中で思っても口には決して出さない自分は結構いい性格しているのかもしれない。手に握られている硝子コップに薄く映し出された自分の姿に思わず見入る。結構不気味だな、と思った。














取り柄は容姿だけ。手に職もなければ、今の所持金もマンガ喫茶に一泊できるかできないか程度しかなかった。呼んでなくとも勝手に寄ってくる香水をプンプンさせたケバい女達の家も渡り歩きすぎた俺に残された居場所、それは実の妹の家だった。


「ふーん。中々豪華な家に住んでるんだね」

「誰かさんと違って私は真面目アル」


仕事から帰ってきてドアを開けるなり、俺が革製のソファーに身を沈めていたのを驚きもせず呆れたように見つめた神楽はハイヒールを脱ぎ捨て、鞄をソファーへ、つまり俺の方へと放り投げてきた。それを持ち前の反射神経で見事キャッチした俺はブランド物のバックに思わず目を瞠る。


「神楽って金持ちだったっけ?」

「頑張って昇進してるネ。目指すは正真正銘のキャリアウーマンアル」

「すごいね。俺には絶対無理だよ」

「兄貴は努力もしようとしてないダロ。女の家に入り浸って遊んでるだけネ」

「しょうがないだろ。俺はお前と違って容姿しか取り柄がないんだから」

「あと喧嘩強いとこぐらい」


自分の最大の長所を言い忘れていたことに気がつき、慌てて付け加える。神楽は既にキッチンにいるらしく、ガラスのコップと金属がかち合うような音がした後にコポコポと液体が注がれるような音が聞こえてきた。そして遠くから不機嫌そうな声も聞こえてきた。


「数日中には出て行くんだろうナ?私の家に入り浸ろうとしてんなら悪足掻きはしない方がいいアル。力ずくでも3日以内に追い出すから」

「ひっどー。薄情な妹」


力だったら俺に勝てないくせに。そう内心思いつつも、今それを彼女に言ったら直ちに撤退命令を言い渡されそうだったので喉の奥で押しとどめておいた。



多分、半年前に居候した時に勝手に連れ込んだ女と俺との行為の最中をタイミング悪く寝室に入ってきて目撃してしまったことを根に持ってるんだろう。まさに果てようと絶頂前の声にならない悲鳴を女があげている時だった。


妹が自分のように執念深い性格であるということは十分に承知していた。それにセックスのような類の行為をあんまり経験していなさそうだから衝撃的な経験だったに違いない。そもそも彼女が今までに恋をしたことがあるのかさえ疑問だ。






「はいはい。三日以内に出てけばいいんでしょ」



渋々といった風に呟いてみせる。勿論、演技だ。どんな手段を使っても此処に居座ってやる。この先、生きていけないのかもしれないというなら自分が生きていけるという確かな見込みを掴めるまで世話になり続けてやる。強い決心を宿した俺の碧眼が玄関の横に置いてある縦長の鏡にソファー越しに映った。結構不気味だな、と思った。







未熟な僕をフォークで






まるで別人な兄と妹。






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