毎日のように通う店も、こうして太陽が地平線の下に潜っている間に来れることはあまりない。店員の溌剌とした声と明るい電子音のような旋律を後ろに、重そうな硝子扉が閉じていく。



片手にぶら下がる茶色の半透明の袋がゆらりと静かに揺れていた。夜風に靡いたのではなく、自身の手を振り子のように動かしていたからだった。


隣を歩く男と同じ様に、首筋を伸ばしながら視界を濃紺で一杯にする。所々に針で刺したような小さな点が散らばっていて、スモッグやら高層ビルやらで霞みはじめていると云われた夜の天井が予想外にも綺麗な姿を保っていたことが無性に嬉しかった。



「こんな時間に街を徘徊ですかィ。嬉々として出掛けて行った近藤さんが今頃泣いてまさァ。」


ゆっくりと振り返ると、久々に目にする男が立っていた。闇に塗れて大部分が見えにくいものの、所々の金色と男の顔の白さが浮いている。どう切り出そうかと暫し頭の中で言葉を探していると、代わりに隣の男が答え始めた。



「不景気な今の世の中だってのに、女に貢ぐ金があっていいよなァ。銀さんに少し分けてくれない。」


それでは彼の言葉に答えていないではないか、と思ったが口には出さなかった。これが男にとって当たり前のことだからだ。のらりくらりといつも避ける。決して直球は受け取らない。


「近藤さんはコツコツ貯金するタイプなんでさァ。まァ、それを一晩でパーにしちまう女性がいるんですけどねェ。」

「ほ−。そりゃ大した女だな。」

「とぼけるのはいけねーや。」


近くで繰り広げられているはずなのに遠くから聞こえてくるような二人の会話に加わる気もなく、地面の砂利を眺めていたら帯をキツく締め過ぎたかもしれないと今更になって思う。片手に魚4匹分の重さを感じながら、胃の辺りに感じる圧迫感が少しずつ強くなっていく気がして一刻も早く歩き出したい気分だった。


「銀さん。新ちゃんも神楽ちゃんも待ってます。これ以上晩御飯が遅くなったら、帰るなりタコ殴りかもしれませんよ。」


妙の尤もな理由に、銀時は振り返らざる得なかった。沖田との数メートルの距離があっという間に縮まり、そして再び広がる。去っていく男女二人の砂利を踏みつける音が徐々に喧騒に包まれた街の中へと消えていった。
















「弱いんですよ。ああいうの。」

「は。」

軒を連ねる家々の窓から零れる明りが作る小さな半円の上を通り過ぎながら、ぽつりと妙は呟いた。周りの雑音で聞き取れないというわけではなく、妙の言葉の意味が分からなかった銀時は思わず聞き返す。


「非難されているような気がして。『どうして応えてあげないんだ』って。」

「見えてないふりして、ちゃんと分かっているから性質の悪い人なんです。」

「そんな器用なことしてんのか。あのゴリラ。」

「ほんのたまにですけど。」


銀時の視界の真ん中に映った彼女の横顔は相変わらず凛としていたが、何処か憂いを帯びている気もした。等間隔で並べられている街灯によって、明らかになっていくのは彼女の容姿だけではなさそうだった。


「早く帰んないと殴られるのは俺なんだけど。」


一旦遅くなった歩をまた元に戻し、妙の数歩前を銀時は歩き出した。彼の手には、並んで歩いていた時にさりげなく妙から奪った茶色のビニール袋が下げられていた。それをくるりと一回転させれば後ろから投げられる不満げな声。


「食べ物を振り回さないでください。」

「いいじゃねーか。どーせお前の手でダークマターに「今夜の担当は新ちゃんです。」


自分の頬を抓る彼女の細い手と指。いつもと変わらないはずの痛みが、今夜はやけに和らいで感じられた。










盲目の魚と肋骨のディナー





幕末で銀+妙+(沖)
ストーカーだけど何やかんやで大人な近藤さん。

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