※幕末で微裏
男から滴る汗でぬらりと光る女の白い肌は闇の漆黒に映えていた。絡み合う舌の動きが僅かに鈍くなった隙に外気を吸い込もうとするが、すぐに妨げられてしまう。喉の奥から零れるのは甘い嬌声なんかではなく、ただの乾いた吐息だけだった。
少しでも余裕を感じたいがために視線を男の肩辺りへと泳がしてみる。すると小さな枕の向こう側に静かに横たわっている自分の赤い着衣を見つけた。あれを再び身につけることができるのは今からどれ位経った時なのだろう。
自分は食われている。目の前の男の獰猛な本能に食われているのだ。だからといって危機感を身に感じるわけでもなかった。むしろそう思えば思う程、奥歯を噛み締めて愛しく思う気持ちを加速させていく。時折目尻から滲み出る水滴こそがその紛れも無い証拠だった。
つまり、彼と同じ布団の上にいることも、彼の細い腰に自分の足を絡めるのも、汗が滴る彼の白い首に自分の腕を巻きつけるのも全ては愛しいという気持ちから生まれた自分自身の意思なのだ。
「寝れるかもなんて期待しない方がいいぜィ」
性急に神楽の乾いた唇を吸い、満遍なくその表面を舐めとりながら沖田は呟いた。彼の表情には珍しく焦燥の色が塗られている。しかしながら不思議がる隙も与えられないので一言返すのがやっとだった。
「してないアル」
「朝日拝んでからなら幾らでも寝かせてやりまさァ」
「うん」
「俺は仕事あるけど、お前は部屋で寝てていいから」
「そんなことしたらマヨに怒られるネ。っていうかお前仕事してたアルか」
「いつも朝に起きれないだけで、午後3時くらいからならちゃんと出勤してる」
「それ殆どサボってんじゃねーかヨ」
「そんなことよりいいんですかィ。睡眠時間がなくなっても」
問いかけとは裏腹に、沖田の紅い目には余裕という二文字が全くみられなかった。要するに彼は満ち足りた気分を味わうことができていないらしい。それはつまり、自分の背中が白くて柔らかい布と擦り合うことが暫く続くということでもある。でも嫌じゃない。擦れることによって僅かな痛みは生まれるものの、拒絶する程のものでもなかったし何より快感の方が断然勝った。
「お前の好きなようにするヨロシ」
するりと己の口から抜けた言葉に神楽自身は勿論、沖田も褐色の瞳を思わず止めた。そのまま目を細め、うっすらと笑みを浮かべる。未だにあどけなさが抜けない少女である彼女が発した言葉は沖田に対してそれなりの効果を持っていた。
「朝日の代わりに雪ってのも悪くないな」
「雪遊びしたいアル。雪だるまとかまくら作りたいネ」
「それなら話は簡単でさァ。お前が俺に従順になればいいだけだから」
「マゾになれってか」
熱を帯びている身体で唯一彼の身体との接触を免れている冷たい背中にもそろそろ体温を感じられる頃だろうか。鎖骨に走る鈍い痛みさえも堪らないエクスタシーへと変わる。
愛おしい、その思いに歯止めをかけることが不可能だと悟れば次にとるべき行動は決まっていた。そうして神楽は赤面必須の甘ったるい言葉を己の口が紡ぎ出す前に、沖田のそれとしっかり重ね合わせた。
感度の低い夜
無意識にイチャコラするチャイナ娘と隊長。