※3Z高→神←沖+α
「最近急接近アルな、色素薄いコンビ。」
中身が半ば真空状態と化した紙パックから生えるストローを咥えたまま、ぽつりと神楽は呟いた。彼女の咥えているストローの先端部分はもはや円柱というよりは水平になっていた。その横で飲み終えたコーヒー缶を見事数十メートル離れたゴミ箱に投げ入れた高杉が静かに同意した。
「まァ事実だな。」
神楽と高杉の視線の先には、くっつくようにして話をしている金色と蜂蜜色の頭が2つ。最初は、有り得ないとクラスメイトの誰もが思わざる得ない組み合わせではあったが、数日前から昼ご飯時に必ず見られるようになった光景に次第に何の疑問も抱かなくなった。
「いいのかヨ。お前の彼女ダロ。」
「別に彼女じゃねェよ。」
「ふーん。」
全く信じてないといった瞳で神楽に軽く睨みつけられた高杉は内心ほくそ笑んでいた。一方的な好意を自分に対して向けていた幼馴染と自分の恋敵が接近することになろうとは全く想像していなかったが、こんな幸運と偶然は滅多に訪れないだろう。何が起きたのかは知らないがそんなことはどうでもよかった。
どうやら密かに自分に宣戦布告してきた男は勝手に勝負から降りたと判断して良さそうである。どうせなら何らかの形でゲームを楽しみたかった、という気持ちもあったが厄介な事態が避けられるのならそれに越したことはない。
「お前こそいいのか。彼氏盗られて。」
「別に彼氏じゃないアル。」
「あっそ。」
あのスカした風紀委員の男が隣にいる女の恋人ではないことくらい知っている。確認の意味も含めて意図的にした質問だった。見た限りでは、特に彼女に動揺した様子はみられない。
ついに紙パック本体まで平らな長方形にさせた神楽をちらりと横目に映した高杉は、景気づけに一本吸う場所を頭の中で思い浮かべていた。そして即座に思い付く場所は2つ程。早速、昼休憩も兼ねて行かせて貰うことにしようと思った。
国語科研究室の合鍵が少なくとも自分を含めて三人の生徒に流通している。学校の何もかもが生温いと一人不敵な笑みをひっそりと浮かべていたら聞き慣れた声が遠くから段々と近付いてくるのが分かった。
「せんぱーい!捜したっス。やっぱり此処にいたんですね。」
満面の笑みで駆け寄ってくる幼馴染に、煙草を咥えたままの高杉は顔だけ彼女の方に向けた。大方、サド男と進展でもあったのだろう。珍しく機嫌が良かった高杉は惚気話でも一つ聞いてやろうという気になった。
「何だよ。」
「さっき風紀委員のサドと話してたんですけど、あの男最近恋人ができたらしくて。もううんざりっス。惚気話。」
「は。」
持ち前の高い分析力も役には立たず、高杉は疑問を滲ませた声を発せざる得なかった。眉を顰める男と同じ様な表情を浮かべながら、また子は言葉を続けた。
「サド男にチャイナの餓鬼女なんて、ある意味相性抜群かもしれないっスけど。」
また子の言葉を聞くや否や、高杉は立ち上がると同時に吸っている途中だった煙草を投げ捨てた。教師の机に積み重なっていた書類にぽとりと落ちた灰が白い紙を焦がし始めたが、それには目もくれず部屋から立ち去って行った。
部屋に残された女が口元をあげ、丈の短めなスカートのポケットから赤色の携帯電話を取り出して次のような会話をしていたとは知らずに。
「あーもしもし?言われた通りに実行したッスよ。多分今から教室に戻ると思います。じゃあ。」
彼女の電話の相手は勿論言うまでも無い、あの男であった。
或いは三人目
アイマスク染み付きパンツ協定。
協定内容:互いの恋路を全力で応援すること。