金魂+パロ。
女を選ぶどころか相手にもされない、雄としての魅力に欠けているような男の客しかクラブなんて利用しないのかと入店二週間目の私は思っていた。
ところが、必ずしもそういう男ばかりを相手にお酒を飲むわけではないらしい。
事実、今こうして私の目の前に座って私の作った水割りを飲んでいる男の顔は女顔負けの端正な造りだったし、おまけに彼の蜂蜜色の髪がライトに照らされて少し眩しく感じられた。
「ホストをなされてるんでしたよね?」
いつも場を仕切ってくれる姐御がテーブルにいる間は安心だ。私は暫く黙って座っている石象になることを許される。
「さすが姐さん。覚えてるんですねェ。」
「ホステスとして当たり前のことだわ。」
そうなのか。ということはつまり私もこの男の職業を頭の中にインプットしなければいけないのか。ただでさえ空き容量が残り僅かだというのに。
男が3杯目の水割りを飲み干した時、漸く私は彼=ホスト(しかも超売れっ子らしい)という等式を頭の中に刻み込むことに成功した。
そろそろだんまりを続けるのも良くない気がして、話題を探しながら彼の方に身を乗り出した。私には見せつける程の胸もないからそれが厭らしい感じにもならない。最近よく使うテクニックだった。
それと同時に「ゴリラの遠吠えを始末してくるわ。」という一言を残して姐御がテーブルから去っていた。それは、場が白けないようにするという任務が私に課せられたことも意味する。
「なんでこんな処に来るアルか。お前みたいなチャラ男なら引く手数多ダロ。」
「お前…接客にその態度はないだろィ。」
「巷で流行りのツンデレ路線アル。」
マスカラが塗られた少々重めの睫毛をぱちぱちとさせてみたりなんかする。上目遣いなんて上級者テクかと思っていたけれど案外簡単かもしれない。男の視線をしっかりと感じながら先程の質問の答えを待った。
「言わなくてもわかるんじゃねーの。貴女方ホステスが俺達の店に来る理由と一緒。」
成る程。仕事じゃなきゃ絶対に一緒に飲みたくないような客を相手にして疲れているのは私達だけではないってことか。
「ご愁傷様アルな。とりあえず乾杯でもするネ。」
二つのグラスがぶつかり合う音は意外にも心地良かった。液体の表面に浮かび上がってきた泡を数粒飲み込む終わると、目の前まで男の顔が迫っていた。私は男の考えていることを探ろうなんてことはしなかった。多分お互い同じことを考えているはずだから。
「とりあえず今度は別の場所で飲まねェか?」
ホラ、やっぱりネ。
似ている夢を二粒飲んで
マフィアボスじゃない神楽とホストのソウ。