ちょいパロ














「教科書って漬物にできるっけ。」


「できるアル。超美味いアル。お前知らなかったのかヨ。ダセー。」



掃除用のバケツを満たす水の中に浸されていた教科書やノート類を摘まみながら神楽は答えた。スタジオの控え室にあるドライヤーを駆使しても、どうやら彼等の復活は望めなさそうだと神楽は悟った。


それにしてもバケツの中に水。その中にテキスト類。さらに蓋まで付けてくれるとは、随分と手間をかけてくれたらしい彼女達に思わず礼を述べてしまいそうになる。




とりあえず一番近くに位置している冷水機の所までバケツを運んでいき、勢いよく水を捨てた。その弾みで漬け物状態にされていた中身も全て落ちた。



それらを一つ一つ拾い上げると、すぐ脇にあったグラウンドまで運び地面へと叩き付けた。さらに砂を塗してやると神楽は得意そうな笑みを浮かべて言った。




「ホラ、天ぷらにもできるアル。スゴクネ?」

「アホか。」



校庭と校舎の間にある渡り廊下から神楽の様子を眺めていた沖田は一蹴した。時折吹き抜ける風が、濡れた彼女の教科書を乾かす役割をちっとも果たさないことを内心喜んでいた。


頬杖をつきながら次第に重くなっていく瞼をどうにかしようという努力をしないでいた沖田だったが、突然神楽が使い物にならなくなった教科書たちを残したまま場を去ろうとすることに気が付いて目を覚ます。



「もう帰るんですかィ。早引き常習犯。」

「オウ。午後一で撮影があるネ。良かったら沖田君も見に来ますか。」

「誰が行くか。」



不敵な笑みを浮かべたまま自分を見つめる神楽を直接瞳に写すことができない沖田は俯いたまま言い放った。

そして小さな足音がデクレッシェンドしていくのを確認すると、明らかに財布と携帯以外何も入っていないであろう学生鞄を肩に掛け直して姿を小さくしていく彼女を暫く眺めた。



本当は、あのバケツをひっくり返して彼女に水をぶっかけて全身を濡らしてやって仕事場へなんか行かせない様にしてやりたい、と頬杖とつきながら思っていた先程までの自分を全力で笑い飛ばたい気持ちになった。








白く濁らない愛情の名前











モデルの神楽と、彼女が女子から嫉妬される第一原因を作っている沖田。

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